SX推進でビジネスを変える:経理財務部門の役割が不可欠 - 定量化を主導
レポート概要:
- 『変革型』経理財務部門リーダーは、サステナビリティー投資が企業に変革をもたらすと捉えています。
- 『変革型』経理財務部門リーダーの過半数(53%)は、主導的にサステナビリティー活動にかかるビジネス・ケース*の生成に貢献しています。
- 『変革型』経理財務部門リーダーの半数近く(44%)は、サステナビリティー戦略を実行する上で、従業員の足並みがそろうよう動機付け(インセンティブ)を行っています。
- 必要なアクションとは? ー IBVの調査により、自社のサステナビリティー推進において、経理財務部門リーダーが果たすべき5つの責務を特定しました。また、日本語版監訳者考察では、日本企業におけるSX推進の現状を踏まえた上で、取り組むべきアクションの要諦を解説しています。
詳しくは、レポートをご覧ください。
*ビジネス・ケース:事業の投資価値や正当性を示す説明文書
レポート詳細:
気候変動が激化する中、企業は重要なサステナビリティー目標を達成すべく日々競争しています。ネット・ゼロ目標の設定により、再生可能エネルギーに移行する取り組みを加速させ、投資の際にも気候変動対策を考慮し、サプライチェーン全体でカーボン・フットプリントを削減します。また、循環型経済に移行することで、廃棄物を出さない製品の開発も進めています。
しかしこれらの目標も、測定可能でなければ意味がありません。実際、国連が「SDGsのためのCFO連合(CFO Coalition for the Sustainable Development Goals)」を発足させたのも、「CFOは数兆ドルに及ぶ企業投資の管理者であり、成長や価値創造、社会的影響を促すカタリスト(触媒)として、企業の経理財務と投資の将来像を決定する特有の立場にある」という認識があるからです。
「CFOは、成長や価値創造、社会的影響を促すカタリスト(触媒)として、企業の経理財務と投資の将来像を決定する特有の立場にある」
サステナビリティーにおいて、CFOが担う重要課題は、今後大きく変わっていくと見込まれます。企業に求められるESGレポートの新たな要件は、複雑化し、透明性の向上が求められるためです。こうした動きに加え、測定可能なサステナビリティー施策を求める規制当局と投資家からの圧力や消費者のニーズも強まっており、経理財務部門の役割に大きな影響を及ぼし始めています。
経理財務部門によるサステナビリティーの活動範囲がどのように広がっているのか、また実際にどのような対策が行われているのかを調べるため、IBVは米国生産性品質センター(APQC)と共同で上級経理財務担当者1,085人を対象に調査を実施しました。この中には、CFOをはじめ、ファイナンス・ディレクター、会計監査役、ファイナンス・マネージャーなどが含まれます。
IBVの2022年のCEOスタディと同様に、各社の持続可能なビジネス施策(クリーン・エネルギーの導入、廃棄物管理の改善、グリーン・ポートフォリオの開発など)への投資の特徴に基づき、回答者を以下の4つのカテゴリーに分類しました。
- 『現状維持型』経理財務部門リーダー(17%):まだ全社的なサステナビリティー投資を行っていない(投資を検討している企業もあるが、全く計画していない企業もある)
- 『コンプライアンス重視型』経理財務部門リーダー(26%):法令・規制要件の順守のみを目的としたサステナビリティー投資を行っている
- 『オペレーション重視型』経理財務部門リーダー(47%):サステナビリティー投資を中核および非中核双方のビジネス最適化の機会として捉えている。
- 『変革型』経理財務部門リーダー(10%):サステナビリティー投資を企業変革の実現手段として捉えている
サステナビリティーの検証:経理財務部門リーダーは、サステナビリティー活動の測定を支援しています。
調査結果から自社のサステナビリティー推進において、経理財務部門リーダーに求められる以下5つの責務で、『変革型』経理財務部門リーダーは際立った成果を上げていることが判明しました。
1. 定量化を主導する:ビジネス・ケースを構築し、意思決定を改善して、サステナビリティー活動の効果を評価します。また、化石燃料や水消費、GHGの排出、素材、再利用とリサイクル、コンプライアンスなどの領域で環境への影響を追跡調査します。
2. 資本を活かす:持続可能な方法で資金を調達し、サステナビリティー活動へ投資資金を配分できるよう支援します。また、グリーン・ボンド(環境債)の仕組みやサステナビリティーが与信と保険に与える影響について機関投資家に情報を提供するほか、従業員の定着率、顧客リテンション(既存顧客との関係維持・つなぎ留め)、資金調達能力などに関する説明も行います。
3. 組織文化を変革する:従業員とパートナー企業双方のインセンティブの方向性を一致させ、サステナビリティー活動を推進させることで、サステナビリティーを重視する組織文化を醸成します。
4. サステナビリティー・レポート作成を業務に組み込む:流動的な規制環境の中で、サステナビリティーの目標や公約の取り組み状況についての透明性を確保します。また、全社的な連携を通じ、適切な評価指標の選定やリスクの定量化と管理、社内外の利害関係者への円滑な情報提供を実施します。
5. サステナビリティーを経理財務部門の業務に組み込む:例えば出張時のサステナブルな移動手段を提供したり、経理財務のテクノロジー・ソリューションにおける排出量のネット・ゼロを目指したりすることによって、経理財務部門内でのGHG排出量を軽減します。
『変革型』経理財務部門リーダーは、以下の3つのアプローチによって自社のサステナビリティー実現を追求しています。
- アジャイルな手法により、自社の柔軟性を高め、ビジネスモデルの変化に対応
- 堅牢なデータ・インフラストラクチャーを基盤としたデータ中心主義により、サステナビリティー目標に関連する非財務データの統合と評価を推進
- より機敏な対処により、イノベーションのスピード向上と全社協力体制を構築
『変革型』経理財務部門リーダーは、組織として気候変動危機に対処し、持続可能な未来を築きつつ、サステナビリティーの取り組みを通じて、いかにビジネスの可能性を広げていくかを模索しています。本レポートのデータやケース・スタディーで詳細をご確認ください。なおアクション・ガイドでは、経理財務部門がサステナビリティー活動を支援するために実践できる具体的なステップも紹介しています。
また、日本語版監訳者考察では、日本を含めたグローバル地域別の調査結果を踏まえて、日本企業におけるSX推進の現状を考察した上で、日本の経理財務部門ならびに経理財務部門リーダーが取り組むべきアクションの要諦を解説しています。ぜひご覧ください。
経理財務部門リーダーの割合 〜グローバル地域別×リーダー類型別〜
監訳者
真藤 達也
経理財務トランスフォーメーション
パートナー
柴山 龍治
FSCT Finance Transformation Strategy
サステナブル経営管理リード
アソシエイト・パートナー
著者について
Monica Proothi, Partner and Global Finance Transformation Leader in IBM ConsultingAdam Thompson, Associate Partner, Global Sustainable Finance and ESG Offering Leader, IBM Consulting
Annette LaPrade, CFO Lead for the IBM Institute for Business Value Performance Data and Benchmarking program
Spencer Lin, Global Research Leader, Chemicals, Petroleum, and Industrial Products, IBM Institute for Business Value
発行日 2023年2月19日