グローバル経営層スタディ CTOの視点:CTOの登場とそのインパクト
組織内の責任分担を再定義し、発見を加速させる

グローバル経営層スタディ CTOの視点:CTOの登場とそのインパクト

組織内の責任分担を再定義し、発見を加速させる



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テクノロジー戦略を最前線に

今日、テクノロジー部門のリーダーたちは、CxO(最高責任者)レベルの経営層の中で、自らが担う役割が重要になりつつあることを認識するようになった。テクノロジーはすでに現代社会において、中心の地位を占めているが、パンデミックによって加速されたイノベーションは、テクノロジーの影響力をさらに高めつつある。組織のリーダーは、テクノロジー戦略やアーキテクチャー、オペレーションの専門家にかつてないほど依存するようになっている。最高技術責任者(CTO)の権限はこれからさらに強くなり、責任範囲はますます広いものになっていくだろう。

CTOが組織の中で、もっとも戦略的な役職の一つになっている。この事実は驚くべきことではあるが、こうした流れは実は何年も前から始まっていた。「バーチャル・エンタープライズ」の誕生は、CTOの存在なくしてはありえない出来事だった。その誕生には、ポスト・デジタル時代において新たなビジネス機会を追求しようとする、CTOの果敢な姿勢が大きく貢献している。

IBM Institute for Business Value(IBV)は、2021年第2、第3四半期に、最高技術責任者(CTO)と最高情報責任者(CIO)を含むCxO(最高責任者)レベルのテクノロジー・リーダー5,000名を対象に調査を実施した。特定の経営層には詳細な定性的面接を行い、この不確実な時代に、リーダーとして組織を率いた経験から得た洞察について語ってもらった。調査の対象は世界45地域の29業種に及び、CTOの役割の影響力と責任が進化しつつあることを初めて明らかにした。

グローバル経営層スタディ CTOの視点:CTOの登場とそのインパクト
組織内の責任分担を再定義し、発見を加速させる


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テクノロジー戦略を最前線に

今日、テクノロジー部門のリーダーたちは、CxO(最高責任者)レベルの経営層の中で、自らが担う役割が重要になりつつあることを認識するようになった。テクノロジーはすでに現代社会において、中心の地位を占めているが、パンデミックによって加速されたイノベーションは、テクノロジーの影響力をさらに高めつつある。組織のリーダーは、テクノロジー戦略やアーキテクチャー、オペレーションの専門家にかつてないほど依存するようになっている。最高技術責任者(CTO)の権限はこれからさらに強くなり、責任範囲はますます広いものになっていくだろう。

CTOが組織の中で、もっとも戦略的な役職の一つになっている。この事実は驚くべきことではあるが、こうした流れは実は何年も前から始まっていた。「バーチャル・エンタープライズ」の誕生は、CTOの存在なくしてはありえない出来事だった。その誕生には、ポスト・デジタル時代において新たなビジネス機会を追求しようとする、CTOの果敢な姿勢が大きく貢献している。

IBM Institute for Business Value(IBV)は、2021年第2、第3四半期に、最高技術責任者(CTO)と最高情報責任者(CIO)を含むCxO(最高責任者)レベルのテクノロジー・リーダー5,000名を対象に調査を実施した。特定の経営層には詳細な定性的面接を行い、この不確実な時代に、リーダーとして組織を率いた経験から得た洞察について語ってもらった。調査の対象は世界45地域の29業種に及び、CTOの役割の影響力と責任が進化しつつあることを初めて明らかにした。

グローバル経営層スタディ CTOの視点:CTOの登場とそのインパクト
組織内の責任分担を再定義し、発見を加速させる

“すべてがデジタル化されると、テクノロジーがビジネスの中核となり、CTOはCEOと同じぐらい重要な存在になる”

— Banco Itaú、CTO、Moises Nascimento

高まるCTOの影響力

コロナ後の世界で生き残るため、企業が自らを再定義するとき、中枢を担うのがテクノロジーを担当する経営幹部 と、彼らが率いる組織だ。「テクノロジー戦略は事業戦略と密接に関係している」と語るのは、インドの通信コングロマリット、Airtel社でCTOを務めるRandeep Sekhon氏だ。また米国の消費財メーカーStanley Black & Decker社のCTOであるMark Maybury博士は、「人類史上初めて、高度なセンサー、量子コンピューター、人工知能などのテクノロジーが、人類に指数関数的な成長を可能にしてくれた」と述べる。

今回のレポートは、弊社によるCTOに関する調査報告書としては初めてのものだ。調査において、最高情報責任者(CIO)とCTOとの間でテクノロジーに関する役割分担が進みつつある実態が見えてきた。CTOという役職は、CxO(最高責任者)レベルの経営層の中では比較的新しいものだ。CTOの登場により、テクノロジーとビジネスの意思決定をめぐる力学は変化しつつある。
CTOの登場は、テクノロジーにまつわる意思決定、イノベーションのスピード、そして新しいソリューションの発見に関する責任のあり方に大きな影響を及ぼしている。

世界のCTOから得られた鍵となる洞察を探る

01

CTOの登場と
その責任

テクノロジ・リーダーたちがどのように、より戦略的なテクノロジーのビジョンを示すのかを見る

読む

02

良いとこ
取り

テクノロジ・リーダーたちがどのように、ビジネス成果を目指しながら、CIOと協力することでさらなる価値を生み出すのか学ぶ

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03

焦点を
絞る

成功要因により定義されるCTOの3つの職責を探る

読む
01CTOの登場とその責任

未来を切り拓くために

現代の組織では、テクノロジーが事実上すべてのビジネス機能に組み込まれているため、テクノロジー・リーダーが担う役割の複雑さや、その地位の重要性ならびに影響力は劇的に増大している。CEOも同様の意見だ。最近の調査で、3,000名のCEOに対し、組織の成功に最も影響を与える経営層は誰かと尋ねたところ、CFOとCOOに次いでCTOとCIOが同率で第3位に挙げられている。また財務実績が上位20%の組織のCEOに限ると、テクノロジー・リーダーたちの順位は、CFOに次ぐ第2位であった。

40%

のCTOは、現在の上司はCEOだと回答している

67%

のCTOは、事業部門や地域部門のリーダーではなく、執行役員クラスの経営層が直属の上司であると回答している

29%

のCTOが、自身の次のポジションはCEOになるだろうと回答している

今日のCTOは、テクノロジーを企業戦略に組み込み、テクノロジーの役割に的を絞ったビジョンを明確に描く責任を担う。具体的にはプラットフォームの構築や、イノベーションの推進、あるいは持続可能なデザイン・パターンやアーキテクチャーの定義などに関する判断を行う。テクノロジー機能 がすべてのインタラクションとビジネス・プロセスの中核となる現代において、CTOはさまざまな施策を指揮する重要な立場にある。

視点:サステナブルの機会

この現代における最大の課題を解決するために経営層はどのように対処するか

読む
CTOは、責任あるサステナブルな企業文化の創造を目指しながら、テクノロジー・サービスをどのように設計し、利用していくべきかについて、より真剣に検討するようになっている。これには、次のような広範囲にわたる課題が含まれる
  • 社会に好影響を与えるイノベーションを創出すること
  • 安全性、透明性、公正性が確保されたデータ利用を促進すること
  • テクノロジーを効率的に活用すること
  • 包括的なシステムで偏見に対処し、平等性を推し進めること
  • 環境や経済への負荷を減らすような規制や規範を、意識的に選択すること
  • エネルギー問題を意識し、環境への影響に配慮したデータセンターを設計・運用すること
  • 今日のCTOは、テクノロジーを企業戦略に組み込み、テクノロジーの役割に的を絞ったビジョンを明確に描く責任を担う。具体的にはプラットフォームの構築や、イノベーションの推進、あるいは持続可能なデザイン・パターンやアーキテクチャーの定義などに関する判断を行う。テクノロジー機能 がすべてのインタラクションとビジネス・プロセスの中核となる現代において、CTOはさまざまな施策を指揮する重要な立場にある。

    CTOは、責任あるサステナブルな企業文化の創造を目指しながら、テクノロジー・サービスをどのように設計し、利用していくべきかについて、より真剣に検討するようになっている。これには、次のような広範囲にわたる課題が含まれる
    • 社会に好影響を与えるイノベーションを創出すること
    • 安全性、透明性、公正性が確保されたデータ利用を促進すること
    • テクノロジーを効率的に活用すること
    • 包括的なシステムで偏見に対処し、平等性を推し進めること
    • 環境や経済への負荷を減らすような規制や規範を、意識的に選択すること
    • エネルギー問題を意識し、環境への影響に配慮したデータセンターを設計・運用すること
  • パンデミックに直面したテクノロジー・リーダーたちは、組織に対する最も差し迫った課題に対処するために立ち上がった。具体的には、デジタル・トランスフォーメーションの加速化、変更管理 (Change management)への取り組み、クラウド・ベースのビジネス活動への移行などが行われた。

    CTOは短期的にも長期的にも、事業を前進させるために、新しいテクノロジーを継続的に採用していきたいと考えているようだ。
    実際、最新のテクノロジーは 、データに基づく価値をもたらす提案やコスト削減を、新たな方法で実現する。
    IBVの調査によると、オープンな組織やオペレーショナル・イネーブラー、エクスポネンシャル・テクノロジー、アドバンスト・データ機能などをクラウド上で戦略的に統合できた組織は、収益を平均で13倍も伸ばしている。

    2019年と比較すると、成熟度が上がったと回答したCTOが増えている
    600%
    デジタル・プロセス・オートメーション、インテリジェント・ワークフロー
    530%
    ハイブリッドクラウド・オペレーション
    353%
    クラウドネイティブ開発
    347%
    クラウドネイティブ・デプロイメント
    282%
    デジタル・インサイト& AI
  • CTOの役割は進化を続け、現在ではテクノロジー戦略の策定から実行まで、その守備範囲は組織の中で最も広いものとなっている。このように職務の戦略的な性質から、CTOは組織のトップとのやりとりが盛んだ。調査によると、CTOの55%が、CxOレベルの経営層と頻繁に情報を交換し合っていると答え、特にCEO、そして同率でCOO(最高執行責任者)と密に交流をしている。

    インプットが増えれば増えるほど、テクノロジー・リーダーはコミュニケーション能力を磨かなくてはならない。Ericsson社の副社長でグローバル・コンピテンス・センター責任者を務めるLotta Karlsson Boman氏は、次のように指摘する。「多くのテクノロジー・リーダーは、技術的な専門職からキャリアを始め、次第に管理職に昇進する。そうした場合、深い技術的な話題に埋もれ がちである。しかしテクノロジー・リーダーたるもの、ビジネス的視点での価値観 とはまったく異なる価値観をも備えていなくてはならない。自信をもって、ビジネスに疑問を投げかけるべきだ」

    またテクノロジー・リーダーは、責任の範囲が広い分、バランス能力が求められる。CTOは一方では、テクノロジーを活かす方法を知悉していなければならないが、また同時にテクノロジーが生み出す機会を見極める力も必要なのである。

    55%
    のCTOが、他のCxOよりも、CEOとCOOとの関わりが密接であると答えた
    “データの力を活かすため、私はCIOや最高データ責任者と協力し、プラットフォームとデータ・モデルに一貫性を持たせるよう努めている ”— David Wood , CTO, KPMG イギリス
  • 組織の中でCTOの役割がますます重要になるにつれ、CTOの技術面でのカウンターパートとしてのCIOへの注目が集まりつつある。高いレベルにおいては、テクノロジー関連の業務には共通する責任があり、それらは通常、CTOとCIOの間で分担される。業界や組織に関係なく、CTOはテクノロジー戦略やオペレーション、アーキテクチャーといった中核となる業務を中心に受け持っている。これとは対照的に、CIOの仕事は業界や組織によって大きく異なる。

    CxOレベルの経営層と各事業部門との橋渡し役は、主にCIOが務めることが多いようだ。今回の調査で回答したテクノロジー・リーダーの70%以上が、サプライチェーンや人材管理、顧客体験、職場の機能実現(workplace enablement)といったバックオフィス関連業務を担当しているのはCIOだと回答している。

    概してCIOの業務は組織全体にわたり、さまざまな階層を結び付けるという意味で「対角線」を描くように縦横無尽に立ち回ることが多い。CIOの成功は、これを遂行する能力にかかっている 。一方、CTOの職務はより限定されている。そのように職務を限定することによってCTOは、組織のテクノロジー利用に影響を及ぼす、最も戦略的な機会と最も差し迫った課題に対処できるのである。

    CIOとCTOに共通する分野

    テクノロジー部門における責任の分担

02良いとこ 取り

岐路に立つコラボレーション

テクノロジーを導入すること自体が、最適な価値をもたらすわけではない。現代の企業が大規模な変革から実質的な利益を得るためには、ハイブリッドクラウドやAI、自動化といったテクノロジーを戦略的に、または効果的に、もしくは戦略的かつ効率的に取り入れることが求められる。それではこれらをテクノロジー部門が実現するには、どうすればよいだろうか。IBVがインタビューした経営層の答えは、一貫して特定のテーマに収斂する。そのテーマとは、コラボレーションである。

多くのCTOはこれを理想的な状況として認識しているようであるが、不思議なことにCTOとCIOは別々に仕事をするケースが多いことが、われわれの調査結果より明らかとなっている。CIOと頻繁にやり取りをすると答えたCTOは45%にすぎず、CTOと頻繁にやり取りをすると答えたCIOも41%にすぎなかった。

CTOとCIOはなぜ歩み寄らないのだろうか。「互いの異なる文化が衝突をもたらすのかもしれない」と答えるのはカナダの銀行の上級副社長である。その点についてKPMGのCTOであるDavid Wood氏は次のように説明する。「CIOは技術インフラとオペレーションに重きを置くのだが、われわれCTOはテクノロジー戦略の策定の方に力を注ぐ。お互いを尊重し合っているが、CIOの仕事をしたいとは、正直私は思わない」

しかしながら、後ほど詳しく触れるが、結局のところビジネス成果にもっともインパクトをもたらすのはコラボレーションなのである。スペインのBanco Santander社のグローバルCTO、Cristina Alvarez氏はこう述べている。「CTOとCIOは、常にトレードオフの関係にある。しかし、もし私たちが戦略について対立してしまえば、変革を実現することなど到底不可能だろう」

テクノロジーの評価指数の値が高い組織は、値が低い組織よりも高い財務実績を示した
  • テクノロジーの成熟度—クラウド、AI、自動化、セキュリティーの導入レベル
  • テクノロジーの効果—アジリティー、データ管理、ガバナンス、レジリエンスの度合い
  • テクノロジーのROI—業界ごとに正規化されたテクノロジー投資による利益

今回の調査を分析した結果、テクノロジーの成熟度、テクノロジーの効果、およびテクノロジーのROIの指標が優れている組織の方が、より高いビジネス業績を残していることが明らかとなった。特にテクノロジー 対策が進んでいる組織は、パンデミックの状況下においても財務実績を大幅に伸ばしており、同業他社に対し、はるかに優位な立場にある。

群を抜く高業績企業

テクノロジーの評価指数の値が高い組織は、値が低い組織よりも高い財務実績を示した

  • 今回の調査を分析した結果、テクノロジーの成熟度、テクノロジーの効果、およびテクノロジーのROIの指標が優れている組織の方が、より高いビジネス業績を残していることが明らかとなった。特にテクノロジー 対策が進んでいる組織は、パンデミックの状況下においても財務実績を大幅に伸ばしており、同業他社に対し、はるかに優位な立場にある。

    テクノロジーの評価指数の値が高い組織は、値が低い組織よりも高い財務実績を示した
    • テクノロジーの成熟度—クラウド、AI、自動化、セキュリティーの導入レベル
    • テクノロジーの効果—アジリティー、データ管理、ガバナンス、レジリエンスの度合い
    • テクノロジーのROI—業界ごとに正規化されたテクノロジー投資による利益
    群を抜く高業績企業

    テクノロジーの評価指数の値が高い組織は、値が低い組織よりも高い財務実績を示した

  • 組織が成功できるかどうかは、ビジネス価値と機能を高められるかどうかで決まる。ビジネスとテクノロジーの関係は一体化しつつあり、テクノロジー部門の責任者は、ビジネスやオペレーション、およびテクノロジーに関する戦略を調整するために、従来の考え方を変える必要がある。

    われわれの分析によると、これらの価値は、リアルタイムに変化する要素にダイナミックに対応し、資産、リソース、洞察、機会を一体化させることから生まれる。そのため、これらの能力の効率性と有効性は、ビジネス成果に大きな差異をもたらす。またこれらの能力は、集中的というよりも、分散的である。効果を発揮するためには、リソースを最適化することよりも、つながりを強化し、より深い洞察を行うことが重要になる。

    テクノロジー戦略とオペレーションは日々複雑化し、相互の関連性は高まっており、これらに係る責任はテクノロジー・リーダーの間で分担されるようになった。テクノロジー戦略、アーキテクチャー、およびオペレーション全般に係るアプローチを指揮する役割はCTOが担うようになり、テクノロジーを事業の中心に据え、さまざまな利害関係者の日常的なテクノロジー・ニーズに応えるのがCIOの主な任務となっている。

    6つのバリュー・ドライバーによる相関

    統合とコラボレーションが、6つのバリュー・ドライバーを強化する。
    CTOが戦略的な取り組みを主導する際の3つのバリュー・ドライバーであるイノベーション、目的、パートナーシップについて考察を行う。

  • NatWestのKevin Hanley氏は次のように述べる。「イノベーションは競争から生まれる。われわれに求められていることは、組織の文化を牽引し、テクノロジーの方向性を見極め、社会が向かうトレンドに光を当て、ビジネスにとって何が有効であるかを探ることである」

    ところで組織がイノベーションを加速するためには、どうしたらよいのだろうか。 
    その答えの一つが、コロナという緊急事態に直面した科学界の対応にある。AIやハイブリッドクラウドなどのテクノロジーにより、科学者たちは科学的手法を加速度的に進化させ、長年取り組んできたボトルネックを解消した。パンデミックを実験台として、科学者たちは最新のテクノロジーを導入し、発見を加速させる新たな時代の基礎を築き上げたのである。このアプローチは、科学の領域を超えて、新たなビジネス機会を生むだけでなく、全く新しい資産クラス、サービス、市場を生み出す可能性を秘めている。実験と発見という科学的手法の厳格さを積極的に取り入れ、エビデンスに基づいてビジネス上の意思決定を行う人々の存在が、やがて差異・違いを生むことになるだろう。

    材料科学分野の動向は、科学的手法をスケールアップして、発見を加速できる可能性を示唆している。ディープ・サーチ、AIや量子力学を駆使したシミュレーション、生成モデル、そしてクラウド・ベースのAIを活用したラボ環境は、集約型で非常に複雑なワークロードを特徴とし、イノベーションを加速する。データとコンピューターをつなぐ架け橋になるハイブリッドクラウドは、量子コンピューティングやインテリジェント・シミュレーションなどの新たなテクノロジーをも統合し、高速で大規模な科学的発見をさらに可能にするだろう。

    80%
    のCTOが、発見プロセス(discovery process)を加速させることが、組織の将来の成長のための中心的課題であると考える
    “技術者は組織のデジタル化にとって、なくてはならない存在だ。CTOはビジネスモデルの中心である、下流から上流までの意思決定に、大きな影響を及ぼす”— NatWest Group、イノベーション担当ディレクター、Kevin Hanley氏
  • 経営層へのインタビューでは、幅広い視野で組織の価値や目的を俯瞰するCTOの独特の意識について、頻繁に話題に上がった。またテクノロジーの影響や、テクノロジーが環境や社会に与えるインパクトについても多くの意見が寄せられた。

    NHS DigitalのMark Reynolds氏は次のように語る。「テクノロジーは命さえ救うことができる。適切な場所に適切なツールの導入を決めるのは、CTOの仕事だ。以前は新型コロナウイルス・ワクチンを接種するための全国的な予約サービスは存在しなかった。しかし今では、1日に百万人もの予約を受け付けている。入手可能なデータをもとに、3万人にのぼる死亡リスクのある患者を割り出し、ガイダンスを行いサポートできるようにもなった」

    Direct Line社のSarah Greasley氏は、「テクノロジーを使って、何か良いことをするのがわれわれの目的だ。コロナ禍の中、テクノロジーでいったい何ができるかを自問するようになった。その結果、分かったことは、ことが起きてから反応するのではなく、ことが起こる前に事前に対処することが必要だということだ。そのためにテクノロジーで何ができるかが問われている」と述べる。

    テクノロジー・リーダーたちは、責任を果たす際には、内と外に目を配ることを忘れない。従業員を惹き付けるためにもっとも重要な属性は、ダイバーシティーとインクルージョン、そして倫理観であると、CTOたちは訴える。同じことがテクノロジー・パートナーを選定するときにも当てはまり、価値観の一致が最優先事項であることに多くのCTOが同意する。そしてこの事実が、3つめのバリュー・ドライバー「パートナーシップ」へつながっていくのである。

    責任あるコンピューターの利用が叫ばれる昨今、CTOは重要ではあるが答えが見いだしにくい、次のような難問に直面している。
    • インフラストラクチャーが環境に与える影響を、最小限に抑え込めるだろうか。
    • 効率性を重んじるコード(行動規範)に配慮しているだろうか。
    • パブリックなデータを、倫理的な方法で利用しているだろうか。
    • そのシステムはインクルーシブだろうか。
    • その行いは、ダイバーシティーに配慮できているだろうか。
  • バーチャル・エンタープライズから潜在的な可能性を引き出すためには、エコシステムとパートナーシップの存在が不可欠である。また従来の境界を超えて価値提案を行うために、組織には、堅牢かつ洗練されたデータ共有システムが必要である。それらは、変化し続けるコンプライアンス要件に対応したポリシー、部門の壁を越えるインテリジェント・ワークフロー、サイバー・セキュリティー脅威に対する共通アプローチ、そして部門横断的なコラボレーションを可能にするオープン・イノベーション手順などがあって初めて可能になる。

    CTOはDXの最前線に立っており、「価値のスレッド」に基づいた拡張ワークフローを構築する上で、重要な役割を担っている。その中でもとりわけ重要な役割は、CxOレベルの経営層へ、さらには取締役会のメンバーにも、最新のテクノロジーについて、その重要性を説くことである。CTOはまた、戦略的パートナーシップにも新たな可能性を見いだそうとしている。エコシステムを通じて、知見やサービス、顧客を共有することにより、パートナーシップは全く新しいビジネスモデルを生み出すことになるだろう。

    本調査においてCTOは、パートナーシップについて振り返り、データから得られた洞察を効果的に共有することが最大の目的であった、と答えている。その他の目的として、透明性と可視性の向上や、信頼の育成、コラボレーションの推進を挙げるCTOが多かった。

    4人 のうち 3人
    のCTOが、エコシステムのパートナーが担う重要な役割として、パイプ役を挙げている。
    “これからは、市場が求めているテーマを探し出し、それを実現するための技術を探していく必要がある。その技術に明るい会社と組むことも必要である”— 旭化成株式会社、代表取締役 兼 副社長執行役員、高山茂樹氏
03焦点を 絞る

CTOの三つの職責

テクノロジーが多様化し、その影響が拡大するに伴い、テクノロジー・リーダーの責任も拡大し、多様化している。CTOやCIOの役割がどのように定義されるかは、リーダー個人とはあまり相関性がなく、組織構造や責任の所在に関する要素が大きく反映されることが多い。

CTOがCIOと協力し合うことで最大の効果を得るには、いったいどうすればよいのだろうか。そのことを知るためには、CTOが組織の中でどのような役割を担っているかを理解することが肝要になる。

CTOの役割は、通常は極めて均質的である。本調査の結果によると、回答者の90%以上が、主要な担当分野にテクノロジー戦略とテクノロジー・オペレーション、そしてテクノロジー・アーキテクチャーを挙げており、これらの分野にほとんどの時間を費やしていると答えている。興味深いことに、同じ設問に対するCIOの回答はバラバラだった。またCTOの多くは自らを、テクノロジーに対し先見の明がある、変革を推し進めるビジネス・リーダーであると認識している。彼らにとっての成功の基準は、テクノロジーを活かしたプラットフォームの成否である。

CTOが自らの経験を、他のCTOと比較して俯瞰視できるようにするため、本調査ではCTOの職責を大きく3つに分類し、それぞれに固有の名称をつけた。

このグループの多くが、設問「時間を費やす課題」においても、経営層や取締役会への助言(39%)、ソフトウェア開発ライフサイクル(34%)を選んだ。なお回答として一番多かったのはデータ・プライバシー(50%)で、4位はエコシステム戦略(29%)だった。

しかし、テクノロジーの管理人たちは、決して組織と切り離されて孤立しているわけではない。実際に、テクノロジー部門内で、コラボレーションを活発に行っていると答えた回答者も少なくなかった。彼らは組織の外に目を向ける一方で、新たな知見を社内で活かそうとしている。またテクノロジーの有効性への評価が最も高かった。テクノロジーの管理人が属する組織は、テクノロジー成熟度は中程度であるが、新たな視点で進化の過程を歩んでいると言える。

優先する課題
  • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 88%
  • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 72%
  • サイバー・セキュリティー: 69%
  • データ・プライバシー: 66%
  • エコシステム戦略: 60%
時間を費やす課題
  • データ・プライバシー: 50%
  • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 39%
  • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 34%
  • エコシステム戦略: 29%
  • このグループの多くが、設問「時間を費やす課題」においても、経営層や取締役会への助言(39%)、ソフトウェア開発ライフサイクル(34%)を選んだ。なお回答として一番多かったのはデータ・プライバシー(50%)で、4位はエコシステム戦略(29%)だった。

    しかし、テクノロジーの管理人たちは、決して組織と切り離されて孤立しているわけではない。実際に、テクノロジー部門内で、コラボレーションを活発に行っていると答えた回答者も少なくなかった。彼らは組織の外に目を向ける一方で、新たな知見を社内で活かそうとしている。またテクノロジーの有効性への評価が最も高かった。テクノロジーの管理人が属する組織は、テクノロジー成熟度は中程度であるが、新たな視点で進化の過程を歩んでいると言える。

    優先する課題
    • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 88%
    • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 72%
    • サイバー・セキュリティー: 69%
    • データ・プライバシー: 66%
    • エコシステム戦略: 60%
    時間を費やす課題
    • データ・プライバシー: 50%
    • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 39%
    • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 34%
    • エコシステム戦略: 29%
  • このグループのCTOは、今回の調査参加者の約3分の1を占めており、その任務が社内に特化している点を特徴としている。このグループは組織内の事業部門のニーズに対応し、その情報を基に将来を見据えて戦略を練り上げる。また採用するテクノロジーの優先順位を決める際は、すぐに入手可能で活用しやすいものを、そして今までの投資を活かせるものを選ぶ傾向にある。

    興味深いことに、このグループのCTOは、CIOとのコラボレーションの重要性に対する評価が3つのCTOタイプの中で最も低かった。また内向き志向であることから予想できることだが、彼らの組織のテクノロジー成熟度は、3つのタイプの中で最も低かった。しかしテクノロジーのROIは最も高く、ROIの面では思った通りの成果を挙げているようだ。

    優先する課題
    • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 78%
    • イノベーション戦略: 61%
    • 事業継続性: 59%
    • サイバー・セキュリティー: 56%
    時間を費やす課題
    • サイバー・セキュリティー: 39%
    • イノベーション戦略: 38%
    • データ・プライバシー: 30%
  • このグループのCTOは、回答者の約4分の1強を占めている。彼らは、CTOとCIOの両方の職務を担っているようで、「実質的なCIO」と表現することもできるだろう。ハイブリッド・ヒーローの時間配分は、CIOと同様に広範に分散している。彼らは収益を高める取り組みを重視しており、このグループが課題に対し是々非々で対応していることが分かる。

    当然と言えば当然かもしれないが、3つのグループの中で、このグループの組織はテクノロジーの有効性評価が最も低かった。しかしハイブリッド・ヒーローは、コラボレーションとテクノロジーの成熟度については、著しく優れた成果を上げている。その権限はより広い領域とパートナーシップをカバーし、ハイブリッド・ヒーローたちは多くのコラボレーションを行いながら、最高水準のテクノロジー成熟度を実現している。

    優先する課題
    • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 65%
    • サイバー・セキュリティー: 60%
    • イノベーション戦略: 58%
    • 職場の機能性: 55%
    • CxOレベルの経営層や取締役会への助言: 51%
    時間を費やす課題
    • ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC): 34%
    • 職場の機能性: 33%
    • イノベーション戦略: 31%
“技術者は組織のデジタル化にとって、なくてはならない存在だ。CTOはビジネスモデルの中心である、下流から上流までの意思決定に、大きな影響を及ぼす”
— NatWest Group、イノベーション担当ディレクター、Kevin Hanley氏
未来を切り開くための計画
“CIOとは互いの仕事を補完し合う関係である。私たちの仕事は、組織をよりアジャイルなものに変えるために、テクノロジーとビジネスの橋渡しをすることだと思う”
— Direct Line Group、CTO、Sarah Greasley氏

CTOの世界は、数年前とは大きく様変わりしている。CTOがチャレンジと変化を戦略的な機会として捉えている組織では、CTOは技術分野で強力なリーダーシップを発揮し、決定的な優位性の確立を目指そうとしている。CTOとして成功を収める人は、組織の事業、最新のテクノロジーや変容するリスク、そしてそれらが組み合わさって生まれる状況をよく理解している。

“CIOとは互いの仕事を補完し合う関係である。私たちの仕事は、組織をよりアジャイルなものに変えるために、テクノロジーとビジネスの橋渡しをすることだと思う”
— Direct Line Group、CTO、Sarah Greasley氏

リスクも大きければ、成功の見込みも大きい。テクノロジーへの投資は、コラボレーションの幅を広げる。さらには有効性を高め、組織の枠を越えた現代的な働き方を促進する。

今こそ、この新しい現実を機会として捉え、精力的かつオープンに受け入れるときだ。
責任あるリーダーシップを発揮する
大胆な未来を思い描き、そこに投資する
思いがけないパートナーと新たな可能性を追求する
過去の経営層スタディ
2023 C-suite Study reports
役職別レポート
Chief Data Officer:
Turning data into value