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サプライチェーンのイノベーションを加速する、「リアルタイムのインサイト」

CEOのための生成AI活用ガイド第9弾 ー サプライチェーン

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。

今回は第九弾として「サプライチェーン」をお届けします。

 

新たなサプライチェーン自動化の幕開け

 

もしも未来をあらかじめ見通せていたら、ビジネス手法を変えていたでしょうか?これは生成AIの時代に、CEOたちに突きつけられた問いです。そしてサプライチェーンの自動化がこの問いを想像上のものから現実の問いへと変えてしまいました。リアルタイムに得られるデータにより、シミュレーションの速度は加速し、予測分析の精度が向上しました。そのため、企業はより容易に将来の計画を策定できるようになったのです。

CEOたちが、サプライチェーンの自動化や合理化を進めるために、急に生成AIに投資を始めたのはそのためです。実際にIBMが行った調査によると、経営層の89%は主要な自動化への投資の中に生成AI機能を含める予定であると回答しており、19%が生成AIは将来のサプライチェーンの自動化にとって極めて重要であると回答しています。

経営層の10人に6人は、自動化に投資する場合、従業員の生産性向上とアジリティ(機敏性)の向上を主な目的としています。生成AIは、これらの効果を働く人間とAIアシスタントの両方に対し飛躍的に高めると考えられています。こうした投資から意図した成果を生み出すのに欠かせないのが、クリーンで信頼性の高いデータです。

組織は、今、生成AIがもたらしたこの機に乗じて、機会を捉え、反応速度を高め、人とテクノロジーの連携を深化させ、あたかもCPUのような速度でイノベーションを起こそうとしています。この好機をつかめていない企業は、サプライチェーンを一元管理するコントロール・タワー機能の停滞を招き、「なぜ後れを取ったのか」と頭を抱えることでしょう。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「データ + 生成AI」

データのリアルタイム化がついに実現します

 

世界中のサプライチェーンに混乱が続く中、経営層は真実に基づく一元化された情報源を求めています。実際に調査結果を見ると、今後3年間の業務上の最優先課題として、51%の経営層が「需要の変動にリアルタイムに対応できること」を挙げています。

生成AIは、そんな経営層にとって朗報となるでしょう。生成AIを導入すれば、サプライチェーン全体からリアルタイムで情報を集めることができるため、対立する意見にも惑わされずに正確な判断を導くことができます。チーム内で異なる数値を巡って意見が対立した際に、どの数値が正確かをいちいち議論するより、必要な情報を集約して全員が共有できるようにすれば、迅速な判断につながります。

経営層の3分の2近く(62%)が生成AIは、発見のペースを加速し、製品やサービスのイノベーションを生む源泉となり得ると予想しています。また、それを正しく行う企業は、優位性を獲得することができるでしょう。実際に、生成AIを先駆的に取り入れた企業はイノベーションを生む頻度が、同業他社を53%も上回っています。

 

経営層の62%は、生成AIは発見のペースを加速し、製品やサービスのイノベーションを生む源泉となり得ると予想しています。

 

言うまでもなく、リアルタイム・データをそう簡単にダッシュボードに表示することはできません。この価値の高い資産を手に入れるには、CEOは、データをセグメント化し、クリーニングを行い、構造化データと非構造化データを組織全体でどのように使用するかを決めるなど、データに関する実務上の課題に取り組まなくてはなりません。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「データ + 生成AI」

問題が起きてから対処するのでは遅いのです。今すぐサプライチェーンの見直しに着手すべきです

 

リアルタイムで得られるデータ主導のインサイト(「リアルタイムのインサイト」)を活用して、イノベーションを実現します。そこから発見した知見と事業ノウハウを組み合わせて、他社との差別化を図ります。どのデータを集中管理すべきか、あるいは分散管理し、エッジやサード・パーティーに残すべきかを決定し、価値の最大化を目指します。
 

  • 先進のモデリングで、サプライチェーンをモダナイズします。生成AIの独自性を活かして、サプライチェーンのアプリケーションやアーキテクチャーを最新化します。量子コンピューティングのツールや手法を利用して、モデルの拡張や機能の最適化の効果を最大限活かします。
     
  • 隠れた問題を見つけ出します。それが目標とするイノベーションの候補となります。需要変動から、調達、生産、出荷に至る、あらゆる領域にわたるエンド・ツー・エンドの実験を推進します。サプライチェーンのさまざまな領域のパートナーとの統合を主導します。それらのパートナーが頼りにするのが、生成AIや膨大なデータが生み出す予測分析やプロスペクティブ分析なのです。
     
  • サプライチェーン・エコシステムにAIアシスタントを導入します。自社のデジタル技術の機能を、サプライチェーン・パートナーの広範なエコシステムに組み入れます。相乗効果と効率性を高めるため、エコシステムのパートナー企業との間で互いの能力や機能の連携を深めます。これにより、自社の基準に準拠したデータや、イノベーションの加速を支援するアクセラレーターに素早くアクセスすることが可能になります。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「生産性 + 生成AI」

円滑な連携が生産性を一気に向上させます

 

サプライチェーンを円滑に管理するためには、将来の混乱を引き起こす問題を特定することが不可欠です。しかし、それは最初の一歩にすぎません。その情報に基づいて迅速に対応するには、グローバル規模の協力が必要です。

そこで活躍を期待されるのが、生成AIです。生成AIを導入することで、人、AIアシスタント、パートナーの間で、迅速かつ効果的なコラボレーションが可能になり、サプライチェーン上で起こる異常を未然に特定し、リアルタイムで修正できるようになります。

IBMの調査によると、次の2年間でデジタル・アシスタントによる意思決定の量は生成AIにより21%増加すると、経営層は見込んでいます。これは新たなミスを生む要因にもなりますが、経営層の82%は生成AIが生むメリットがリスクを上回ると考えています。

もちろん、人間として従業員は依然として重要な役割を担っています。人がもたらす創造性、共感、批判的思考は、業務を見直し、複雑な問題を解決するためには、なくてはならないものです。しかしながら、これらのスキルを適用する方法は急速に進化しています。サプライチェーンの経営層の71%は、生成AIが人の働き方に極めて大きな変化をもたらすと回答しています。

現在、経営層の10人に9人が、AIアシスタントおよびインテリジェント・オートメーションによって、2026年までにワークフローがデジタル化されるとみています。この広範なデジタル化は、サプライチェーン全体にメリットをもたらすと考えられています。さらに80%の経営層は、生成AIを導入すれば、全サプライヤーの実績を指標に基づき分析できるようになり、サプライチェーン管理が改善されると考えています。

 

経営層の10人に9人が、AIアシスタントおよびインテリジェント・オートメーションによって、2026年までにワークフローがデジタル化されるとみています。

 

リーダーは可視性と透明性を向上させることで、パートナーからの問題の報告が来る前に、即座にリスクに対応できるようになります。また、サプライチェーン全体から収集したクリーンで信頼できるデータを統合すれば、業界全体が正確でリアルタイムの情報を利用できる大規模言語モデル(LLM)を構築できるようになります。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「生産性 + 生成AI」

サプライチェーンの生産性向上につながるデータを生成AIに取り込みます

 

サプライチェーンのエコシステム全体で、人とテクノロジーを結びつけるために必要な、予防的なデータ・イニシアチブを全領域に対応させます。意思決定と行動をスピードアップさせるため、従業員にツールの使い方を指導し、スキルアップを促します。自社が属する業界のサプライチェーンに特化したLLMを構築します。
 

  • 人間の力とテクノロジーを融合し、リアルタイムのインサイトを導き出します。計画策定、調達、製造、販売、輸送など、サプライチェーンのすべてのポイントでこの融合を実現します。生成AIを活用して、人とAIアシスタントの双方で生産性を向上させます。

  • プロセスの改善を加速します。サプライチェーンの主要な機能で、プロセスを改善するためのリーダーを選任し、改善を提案、実行させます。テクノロジーが人材を強化し、人材がテクノロジーを強化することで、優れたプロセスを実現し、従業員体験を改善します。サプライチェーンのプロフェッショナルを取引業務から解放して、本当に大切なビジネス上の問題に集中できるようにします。

  • サプライチェーンの運用情報を、従来のダッシュボードではなく、リアルタイムの大規模言語モデル(LLM)によるクエリー(問い合わせや処理要求)を通じて把握します。包括的なサプライチェーンの指標と取引データを生成AIモデルに入力します。LLMを使って瞬時にインサイトを導き出し、意思決定のレイテンシー(遅延時間)を解消します。ギャップ分析や相互連携のポイントを基に新しいプラクティスを構想します。さらに、「予測型」および「予防型」それぞれのアプローチに対する推奨を活用します。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「予測 + 生成AI」

生成AIは一歩先を映し出す鏡のような存在です

 

未来を予測することは、占い師の専権事項ではありません。生成AIは、世界的に複雑な問題の対抗手段となり得ます。リーダーが迫りくる脅威を察知するのを手助けし、予感だけにとどまらない現実的な回避戦略を立案できるよう支援します。

経営層の5人に4人以上(81%)は、生成AIの予測機能を使えば、問題を早期に発見できると回答しており、77%が生成AIモデルが地政学的リスクと気候リスクを特定することで、先を見越した緩和策の実施が可能になると述べています。より戦術的な面でいうと、経営層の79%は需要パターンの将来予測で、在庫管理の最適化も図ることができると回答しています。

さらに経営層の80%が、デジタルツインなど可視化やシミュレーション機能を備えた生成AIモデルは、サプライチェーンのボトルネックをリアルタイムで発見すると回答しています。しかし、実際の活用は限られるようです。2025年までに、複雑なシステムのシミュレーションやモデリング、輸送経路の最適化、プロダクト・ライフサイクルの管理、カスタマーサービスとリアルタイムの応対などのサプライチェーンのユースケースに、生成AIを活用すると答えた経営層は19%にとどまっています。

 

経営層の80%がデジタルツインなど、可視化やシミュレーション機能を備えた生成AIモデルは、サプライチェーンのボトルネックをリアルタイムで発見すると回答しています。

 

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「予測 + 生成AI」

生成AIのプラットフォームによって、サプライチェーンのオペレーティング・モデルを強化します

 

自己学習型のシミュレーション機能を構築し、重要な業務上の例外を特定、視覚化して、事前に修正できるようにします。取引業務を高度に自動化し、業務効率のレベルを次の段階にまで引き上げます。
 

  • 次の混乱を未然に察知し、破壊的変化を予測し、備えます。アナリティクス(分析)やデータ・ビジュアライゼーション(データの視覚化)、シミュレーション・モデルを導入します。並行して生成AIのパターン認識機能を活用します。競合他社が苦戦を強いられているときにも、冷静かつ決然とした姿勢を貫き、サプライチェーンの安定化を図ります。
     
  • ミッション・クリティカルなポイントに重点を置きます。サプライチェーンのワークフローの中で最も重要で、他社との差別化に関わるものを、手始めに生成AIによる予測のユースケースと連携させます。主要なパートナーを取り込み、協力によって予測の精度を高めます。生成AIによる予測は他と明確に区別し、後から監査できるようにします。
     
  • 事前モデリングのプラス効果を測定します。生成AIがもたらす予測分析のパフォーマンスとROIを定期的に評価します。こうした取り組みが望ましい結果をもたらしていることを確認するための明確な目標を設定し、必要に応じて調整しながら、継続的な改善を行えるようにします。

 

当レポートに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueがオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施した生成AIに関する2つの独自調査で得たデータに基づいたものです。第1回調査は2023年9月に実施され、生成AIとサプライチェーンについて、米国を拠点とする企業の経営層200人から回答を得ています。第2回調査は2023年4月から7月に実施され、自動化とAIについて、21カ国の経営層2,000人から回答を得ています。


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発行日 2023年11月7日

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