銀行は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)とデジタル化の導入が非常に重要であることを理解している。そこでIBMとBIANは、優良金融機関がDX戦略をどのように最適化しているのかを調査した。
IBVは、銀行業界の最高情報責任者(CIO)と最高技術責任者(CTO)、計2,000人を対象に国際的な調査を実施した。イノベーションを推進し、最新テクノロジーの導入を進め、ビジネスモデルおよびワークロードのDXを加速させるためには、どのような取り組みが必要となるのか。今回の調査ではこうした点を明らかにしている。厳しい状況にある金融サービス業界で成功を収めるためには欠かせない戦略である。
今回の調査で分かったのは、ハイブリッドクラウドの取り組みを通じて、銀行のDXが一気に進む可能性がある、ということだ。
銀行のDXを左右する「6つの重要なプラクティス」
DXを的確に進めた場合、コスト削減やビジネス価値の向上につながる。自動化や人工知能(AI)の活用、アプリおよびワークロードのモダナイゼーション(最新化)の力を借りて、銀行はコストを劇的に削減できる可能性がある。ビジネスモデルや顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス、CX)はDX効果によって、新たな収益源を生み出す。さらに、モノリシック(一枚岩)なアーキテクチャーから、柔軟なハイブリッドクラウド・アーキテクチャーへ進化することにより、こうした財務上のプラス面が強化される。
しかし、銀行は既存のワークロードのシステム構成をそのままハイブリッドクラウドに移行させる(「リフト&シフト」)だけでは不十分だ。
従来型の銀行は、DXを業務モデルの実践やアプリに導入することで、行内のみならず、パートナーとプロバイダーのエコシステムでも、新たな働き方とイノベーションを実現することが求められる。
今回の調査では、優良金融機関の特徴を調べ、そのプラクティスと能力を明らかにした。本調査では優良金融機関について、「他行と比べて自己資本利益率(ROE)が高い」か「費用収益比率(CIR)が低い」、もしくはその両方を実現している銀行のことを指している。こうした銀行では、6つの重要なプラクティスと能力が共通している。
このようなプラクティスと能力を組み合わせると、ハイブリッドクラウド・テクノロジーを縦横に活用する、強力なロードマップを描くことができる。端的に言うと、今日の従来型モデルから、拡張性があり、柔軟性に富んだ未来型ビジネスモデルへ移行する、ということである。この6つの重要プラクティスによって、多くの銀行に明確な機会と「成長の余地」がもたらされる。
金融サービスのDXに向けた強力な組み合わせ
健全な財務を実現し、デジタル環境に適切に対応するために、事業部門とテクノロジー部門は共に、さまざまなイニシアチブを評価しなければならない。DXの実現のためには、以下の3つに取り組むべきである。
- 社外に対し門戸を開き、イノベーションを受け入れる。各エコシステムと銀行とのパートナーシップを変革する
- 「銀行の運営を効率化する」ため、ビジネス・プロセスや専門性、アプリをモダナイズする
- ハイブリッドクラウドを検討・導入する初期段階を脱し、レガシー・システムや技術的インフラストラクチャーをさらに進化させる
私たちはこの3つの優先事項(イニシアチブ)について、銀行や金融サービス会社の経営層の意識を調査した。経営層はどのDXのイニシアチブに重点を置いているのだろうか。またどのイニシアチブがビジネスの価値や財務状況を向上させ、コストを削減すると考えているのだろうか。こうした視点を理解することは、銀行が堅固な財務体質を持つに至る過程の、どの段階にあるかを知る手掛かりとなる。
DX戦略を推進するための次のステップ
銀行業界では競争がますます激化している。パンデミック時代ならではの課題やマクロ経済的な条件、さらには、顧客体験や収益面で競合するフィンテックの登場といった要因があるからだ。銀行業界は今、デジタル・バンキングの導入と継続的な改革を実施し、ビジネスの収益性を向上させ、コストを削減する必要があり、オペレーションの大幅な変革が求められている。
優良金融機関になるためには、ハイブリッドクラウドへの移行は前提条件でしかない。銀行のビジネス・アーキテクチャーを、モノリシックで硬直化した複雑な高コスト体質から、オープンでモジュール的、かつアジャイル(変化に遅れない)で自動化の進んだ体質へと変える必要があるからだ。
今回の新たな調査結果は、銀行がこうした取り組みを進める上で大きな力となり得る。レポート全文では、優良金融機関にとっての6つの重要なプラクティスや、銀行がどのようなデジタル化やユーザー体験に投資しているか、ハイブリッドクラウド戦略は高度にデジタル化された未来を実現するためのきっかけとなり得るか、などについて詳しく解説している。
著者について
Shanker Ramamurthy, Managing Partner, Global Banking & Financial Markets, IBM ConsultingJohn J Duigenan, General Manager, Financial Services, Banking, Financial Markets, and Insurance Global Industries, IBM Technology
Hans Tesselaar, Executive Director, BIAN
Paolo Sironi, Global Research Leader, Banking and Financial Markets, IBM Institute for Business Value
発行日 2022年9月27日