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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策アクション・ガイド:グレート・ロックダウンを超えて

本レポートは、2020 年 4 月 10 日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策アクション・ガイド」を補足するものです。今後も状況に応じて、随時更新版の発表を予定しています。このトピックに関する最新情報はこちらご参照ください。

全世界で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生命や仕事が奪われ、各業界や企業は打撃を受け、予想だにしなかった状況がもはや「当たり前」のものとなった。

全世界で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生命や仕事が奪われ、各業界や企業は打撃を受け、予想だにしなかった状況がもはや「当たり前」のものとなった。

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This report supplements the COVID-19 Action Guide we released a few weeks ago. We will continue to update our assessments as conditions evolve. See our current collection of business research on this topic.
いずれ平時に戻るとき、そこに広がる光景は、これまでとは違う「ニューノーマル」である。今、何をするかで、未来が決まる。とは言え、決断を下し、確信を持って行動することが、これほど困難なことは、いまだかつてあっただろうか。
しかし、日を追うごとに不確実性が高まる世界においても、レジリエンスを高める行動をとることは可能だ。不確実性の渦中において、進むべき道筋を明示するフレームワークは、企業が生き残る上での鍵を握るだろう。
今こそ、ニューノーマルに対する準備を進めるときだ。事業における7つの重要課題に焦点を当てることにより、アフターコロナで直面するであろう課題に対処するための戦略を構築できるようになる。
本レポートでは、あらゆる企業の経営層にとって有益となる、7つの主要な重要課題に対応したフレームワークを提示する。7つの重要課題とは、以下のとおりである。
  • リモートワークの促進
  • 顧客とのバーチャル接点の構築
  • 事業継続性の強化
  • 俊敏性と効率性の促進
  • 新たなサイバー・セキュリティー・リスクへの対応
  • コストの削減とサプライチェーンの継続性確保
  • 医療や行政サービス現場への支援
このガイドは、実用的かつ実行可能なものとなっている。また、これらに未着手である企業が直ちに取り組むべき一連の行動を示している。と同時に、新型コロナウイルス感染症がさまざまな業界や企業、個人の行動パターンにもたらした長期的な影響と永続的な変化を示唆している。これらの変化は、企業にこれまでとは異なる新たな日常「ニューノーマル」に確実に適応できるよう、さまざまな行動変容を促している。
なすべきことは膨大で、それに伴う困難は極めて大きいと思われるかもしれない。だからこそ、今まさに経営層は一丸となって取り組む必要がある。来る時代の「ニューノーマル」は、組織的、社会的、および文化的にさまざまな面で新たな習慣を生み出すだろう。各リーダーは、企業の将来の成功に向けて準備を進める役割を担う。それでは、早速取り組みを開始しよう。
  • 推奨されるリーダーシップ: 人材担当リーダーおよび最高人事責任者(CHRO)
    閲読に要する時間: 4分
    新型コロナウイルス感染症によって引き起こされた多くの経済損失の中でも、職場における損失はとりわけ深刻なものの1つであろう。一般的な労働環境での人材管理において、すでにこれまでもリーダーシップや従業員エンゲージメント、生産性、スキルなどは大きな課題となっていた。しかし、今やこれら課題は、より不透明な状況に陥っている。現在のこの世界的な危機が、大規模かつ突発的な変化の加速要因となり、働き方、個々人やチームとのコミュニケーション方法、学習方法やイノベーションの起こし方に至るまで、あらゆることがたった数週間のうちに完全に変貌を遂げてしまったのだ。
    CHROの業務が、これほどまでに重要かつ困難であったことはいまだかつてない。コミュニケーションやコラボレーション、スキル、文化を仮想モデルで運用したり、維持したりすることは、今や全世界の人事リーダー共通の仕事となった。彼らは、従業員のエンゲージメントと生産性を維持するために、完全な「在宅勤務」モデルへの移行を進め、仮想エージェントを即座に導入し、危機の最中でもエッセンシャル・ワークに従事する社員の動向を把握しつつ、強固なオンライン学習プラットフォームを立ち上げ、同時に事業再開および未知の「ニューノーマル」に向けた計画を進めている。一体どうすれば、これだけの業務を達成できるのだろうか。
    まず手を付けるべき重要な施策の1つとして、従業員の健康と安全に対する取り組みが挙げられるだろう。最近のIBVの調査によると、在宅勤務中の従業員が最も懸念していることは、自分自身と家族の健康である。そのため、非常事態におかれた多くの企業は、オフィスを閉鎖し、エッセンシャル・ワーカーである従業員を迅速に特定し、関連するツールやテクノロジーを駆使してリモートワーク・ポリシーを実践することに注力してきた。
    しかし、ネットワーク接続ツールやグループ会議のソフトウェアを提供するだけでは、リモート・ワーカーへの健康支援策としては十分と言えない。また、従業員が従来の職場とは違う場所においても、生産性を保持し続けられる環境の整備は、文化的側面も含め課題と言えるだろう。例えば、リーダーはどのようにして自社の持つ価値を在宅勤務の従業員に体得させ、発揮させることができるのか。チームはどのようにして物理的な距離を超えて協働できるのか。企業はどのようにしてグローバル、またはローカルに従業員とコミュニケーションをとることができるのか。
    コミュニケーションが鍵を握る。リーダーが伝えたい事柄が、常に意図したとおりに受け取られているとは限らない点に注意が必要だ。
順応性のある労働文化への信頼や柔軟性、レジリエンシーの構築に重点を置くリーダーは、対面、リモートどちらであっても、従業員が心身ともにベストな状態で仕事ができるような環境整備に努める。 Citrix 社の最高人事責任者は、既知と未知とにかかわらず、全社的または限定的なコミュニケーションを強化することにより、従業員が落ち着きを取り戻し、集中力と生産性を維持できるようになった、と述べた。また一部の企業では、定常的に一貫性のあるメッセージングを促進するために、仮想アシスタントとチャットボットを利用するようになった。 Siemens社 では、現在の危機的状況の前からすでに人事部がCarlと名付けた AIチャットボットを導入 し、月に100万件の従業員からの問い合わせに対応している。仮想アシスタントは比較的短期間で導入できるため、現段階では多くの企業にとって魅力的な選択肢となっている。
コミュニケーションが鍵を握る。リーダーが伝えたい事柄が、常に意図したとおりに受け取られているとは限らない点に注意が必要だ。調査対象の経営層の74%が、新たな業務のやり方を習得できるよう従業員を支援していると述べた。一方で、調査対象の従業員のうち、そのような支援を受けていると回答した割合は全体の3分の1に過ぎず、36%ポイントのギャップがある。すべての対話にフィードバックの仕組みを作る必要があることは明白である。
リモートワーク中の従業員が、以前と変わらぬ生産性を保ちつつ業務に従事できるよう、人材リーダーとCHROが直ちに実施すべき短期的な対策は以下のとおりである。
  • 24時間365日体制で情報を提供する従業員向けデジタル・チャネルの開設と、従業員からの新型コロナウイルス感染症やその他の危機管理関連の問い合わせに対する回答
  • エッセンシャル・ワークに従事する従業員の特定と公認
  • 現時点での企業ポリシーや改定されたポリシーに関する、あらゆる法的影響および法的責任についての法務顧問による見解と評価
  • リモートワークに対する期待や柔軟な作業体制への言及のほか、従業員のメンタル・ヘルスと家族に対する明確で透明性の高いサポート内容を含めたポリシー改訂の実施
  • 現状の出張制限下においても、必要に応じて重要なサイトに従業員が移動できる安全通行証の発行
  • 感染の可能性のある従業員や、緊急対応のため突発的に業務量が増大する可能性のある従業員に対して、仮想スキルや仮想サービスを一時的に提供する社外サービス・プロバイダーの選定
多くの企業にとって次に課題となるのは、現在の非常事態から これまでとは異なる「ニューノーマル」へのシフトであろう。特 に職場への復帰に向けた取り組みを進める中では、避け難い 困難も予想される。IBV の調査によると、現在の職場の状況 をよく知る経営層は、リモート・ワーカーの数が、新型コロナ ウイルス感染症発生から 2 年後には、それまでと比べて 2.5 倍に増えると予想している。3したがって、CHRO およびその他 の経営層にとって究極の長期的な目標は、社員を危機に対し て無関心な状態から、世界的規模でのレジリエンシーを確保 しつつ、今以上に将来の危機を予測可能な組織の構築である。
人材担当リーダーおよびCHROは、これまでとは異なる「ニューノーマル」へと移行する間に、事業再開からリモートワークができるようになるまでの長期的な計画を策定する必要がある。
未来を見据える企業は、以下のような特徴を備えている。
  • 明確なガイダンスとルールを設定し、リモートワークおよび分散作業をサポートする戦略と企業ポリシー
  • リモート環境において、企業文化や管理システムをどのように浸透させ、バランスを取っていくかの明確なビジョン
  • 強力なデジタル・コミュニケーション・ツールやコミュニケーション方法、働き方によって可能になる、ビジネスのあらゆる側面に俊敏性が適用される企業文化
  • 実空間・仮想空間双方の職場環境の柔軟な設計に加え、共創する文化を促進し、変化に迅速に適応可能で、たとえ遠隔地であっても職場にいるのと変わらない効果的なワークフロー
  • 従業員が新たなニーズや形態のビジネスに適応できるよう、オンラインでのパーソナライズされたスキルや能力開発戦略の加速
  • デジタル化によって、すべてのリソースにどこからでもアクセス可能なリモート環境において、ジョブ共有やクラウド・ソーシング、分散型人材ソーシングなど、人材のソーシングや作業を行うための新たなビジョン
  • 仕事を一新したり、洗練したり、または再開したりできる場所について、客観的な視点から評価する機会を持つ革新的なマインドセット
コミュニケーションが鍵を握る。リーダーが伝えたい事柄が、常に意図したとおりに受け取られているとは限らない点に注意が必要だ。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高マーケティング責任者(CMO)
    閲読に要する時間: 3分
    このパンデミック で、極度なソーシャル・ディスタンスが求められる中、顧客からは前例のない、この状況特有の質問が多く寄せられるようになった。サービス・センターや政府の電話相談窓口、医療機関など、どこも問い合わせの電話応対でひっ迫している。多くの質問が重複しているが、その内容が常にWebサイトの一般的なFAQに掲載されているわけではない。また、多くのセンター要員を訓練して、急速に変化する環境下で正確な回答を提供し続けることが、現在のコンタクト・センターのモデルのままでは困難を極めることは明らかである。
    急増する需要に対しては、急速な発展を遂げているデジタル・ツールを活用することで対応は可能である。近年、会話型AIは、チャットボット、仮想エージェント、その他の自動化プロセスなど、さまざまな形で企業や政府の業務に取り入れられつつあるが、これを広範囲に普及させる必要がある。
    2018年にVodafone社は、 TOBiという仮想エージェント を導入することで、従来の人手によるお客様サービスを拡張することに成功した。現在、同じアプローチが新型コロナウイルス感染症でひっ迫する病院、保険機関、政府の電話相談窓口などの対応に利用されている。
    対面型の顧客対応が再開されたとしても、販売とサービスの慣行は変容したまま元には戻らないことに、多くの CMO は気づいている。リモート環境下で実現された応対スピードを、顧客は今後も求め続けるだろう。
これらのツールは、手順の効率性と有効性、導入までの期間を考え合わせると(場合によっては、仮想アシスタントは数時間で使用できるようになる)、アフター・コロナのコアなビジネス・ツールになるであろう。実際、経営層の97%が、今後2年間で新型コロナウイルス感染症発生以前に比べ、より多くのAIツールが導入されるだろうと回答している。
CMOが準備しておくべき、仮想化に向けた取り組みは以下のとおりである。
  • 顧客に明確に伝わる、Webサイトやアプリでの効果的なデジタル・メッセージング
  • コール・センターから在宅勤務へのお客様サービス担当員のシフト
  • 大量の問い合わせ応答の、音声・チャットの仮想エージェントや、クラウド・ベースの対話式音声応答(IVR)の自動化
  • 音声からメッセージングへの転換による応答時間、自動化、およびエージェントの効率性向上
  • 有効性と結果データに基づくプロセス改善を実施するための、測定およびテストのメカニズム
  • 会話機能の構築やトレーニング、そして可能な限り広範囲なアプリケーション、デバイスおよびチャネルへの導入
対面型の顧客対応が再開されたとしても、販売とサービスの慣行は変容したまま元には戻らないことに、多くのCMOは気づいている。リモート環境下で実現された応対スピードを、顧客は今後も求め続けるだろう。
顧客やパートナーとの遠隔コミュニケーションは、対面でのコミュニケーションが再開された後も、ビジネスを遂行する上で中心的な役割を担うだろう。また、販売やサービスの慣行も不可逆的な変化を遂げるだろう。顧客はリモートでの応答速度に順応しつつあり、企業側もデジタル空間での差別化を図り、正真正銘“リアルタイム” で顧客体験を生み出したいと考えるに違いない。
CMOが長期的に期待し、取り組むべき特性は以下のとおりである。
  • 危機後のコア・ビジネスに移行可能な、リモートで顧客エンゲージメントを行うための中核的研究機関(Center of Excellence)の設立
  • オフィス勤務の制限解除後における、在宅勤務の慣行拡大の継続
  • 次世代コンタクト・センターの「as a service化」検討
  • 拡張が容易な低コストのサービス・チャネルとして、音声を代替するメッセージングの採用
  • 顧客が必要としている価値・データ・洞察を提供する、現代にふさわしいタイムリーなコミュニケーション機能を備えたデジタル・セルフ・サービス環境の構築
  • マーケティングや企業活動の再定義、さらには新しい価格体系やエコシステムに対応した新たなデジタル・ビジネスモデルの構築
  • 企業全体にわたりデジタル顧客体験の再設計と統合を加速し、高い特異性や個性、ブランド特性、満足度をもたらすエンド・ツー・エンドの仮想クライアント・ジャーニーの創出
  • データ・アーキテクチャーとAIによる改革に注力し、新たに統合され、リアルタイムにパーソナライズされた顧客体験の提供
  • AI、ブロックチェーン、およびその他の先進テクノロジーによって強化された、クラウド・ベースのコマース・プラットフォームを活用したデジタル変革の実行
対面型の顧客対応が再開されたとしても、販売とサービスの慣行は変容したまま元には戻らないことに、多くの CMO は気づいている。リモート環境下で実現された応対スピードを、顧客は今後も求め続けるだろう。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高技術責任者(CTO)および最高情報責任者(CIO)
    閲読に要する時間: 3分
    退避指示が発令されたとき、多くの企業からさまざまな疑義を呈する声があがった。例えば、本当に職場から離れた場所で業務に必要な物の入手や作業の実施が可能なのか、また現実問題としてリモート・モデルへの移行が一夜にして可能なのか、といった問いである。
    IBMはテクノロジー企業であるが故に、期せずして必要なリモート対応はすでに整っていた。しかし、多くの企業では、自社にリモート対応が可能なのか、確信が持てずにいた。このような状況が、結果として各社に事業継続計画の真価を問うこととなり、しばしば計画の見直しにもつながった。
    必要なのは、最大限の柔軟性と、仮想デリバリー・モデルを支援する技術アーキテクチャーおよび運用上のレジリエンシーである。詳細は「重要課題#4: 俊敏性と効率性の促進」で後述する。
    CTOとCIOは現状への適応を迫られており、その中でも急ぎ準備すべき最も基本的な内容は以下のとおりである。
    • 可用性と重要度別に整理・体系化された、アプリケーション・プラットフォーム、サービス、データ・ストアなどの高価値資産の一覧
    • 意思決定が迅速かつ安定的に行われるよう最新化された、危機管理における役割や責任を明記した名簿
    • リモート・ワーカーやパートナーの実務を支援する、24時間365日体制でのIT運用のサポート機能
    • 独立したクラウド・インスタンスを含む、さまざまな場所やアクセス・ポイントへの基幹業務ツールの配布
    • 仮想プライベート・ネットワーク(VPN)およびクラウド・ベースの生産性向上アプリを含む、リモートワークのための堅牢なプラットフォーム
    • 顧客やクライアントのリモートワークのサポートを含む、重要なサービスとツールのバックアップ機能
    • 顧客、従業員、パートナー、およびコミュニティーの利害関係者に対するロジスティクス面でのサポート不足を評価し、対処するための継続的なプロセス
    CTOとCIOには、デジタル技術を最大限に駆使して運用のレジリエンシーや柔軟性を高める、詳細な事業継続計画が必要である。
    CTO と CIO には、デジタル技術を最大限に駆使して運用のレジリエンシーや柔軟性を高める、詳細な事業継続計画が必要である。
ITレジリエンシーを強化する目的で、一部の運用に「バースト・キャパシティー」が追加された。例えば、多くの金融機関では、取引の大幅な変動によるIT 需要の急増に直面したため、トランザクションのスループットを高パフォーマンスで実現する必要性が生じ、メインフレーム容量の段階的拡張が行われた。自社が保有する限られたシステム資源で、必要な容量と同等か、それ以上の規模の運用を賄っていた企業には、クラウド・プラットフォームへの依存度が高まったことで、運用の合理化、コストの削減、拡張性や俊敏性の向上といった付加価値がもたらされた。
企業にとっては、現在の非常事態下で俊敏に適応することが、長期的な競争力の強化にもつながるだろう。事実、現在行っている調査によると、84%の経営層が、将来より多くの顧客がさらに高い頻度でオンラインによるコミュニケーションを希望すると予測している。
CTOおよびCIOが、自身の計画に含むべき内容は以下のとおりである。
  • 事業継続計画は、従来のチェックリスト式の慣例的なものから、現在では企業の将来的なウェルビーイングにとって重要な資産となり、かつビジネスにおいては、より本質的な戦略的機能を提供するものへと進化を遂げた。大規模な事業継続計画は、地理的な位置や具体的な場所固有の条件に応じて、多くの詳細な計画に細分化されたり、一時的に仮想代行を提供できる社外のプロバイダーとエンド・ツー・エンドで統合されたり、サイバー・セキュリティーのリスク軽減に注力したりする必要がある。
  • システムとプロセスは、テストや回復の時間短縮を含め、より高度な応答性を基準に構築および運用される。
  • 物理的なIT資産・リソース・運用などへの依存を減らすことで、予算と人員配置に長期的なメリットをもたらす場所と規模の柔軟性を確保する。
  • インフラストラクチャーの統合と、標準のクラウド・ベースのデリバリー・プラットフォームに関する運用サポート・プロセスを簡素化する。
  • 場所への依存性が高く、手動によるテープ交換などの屋内避難指示の下ではアクセスが困難な環境の置き換えなど、クラウド上のアーカイブとストレージへの移行を永続的に進める。
  • 自動化と仮想ワークフロー・オーケストレーションへのコミットメントの深化や、オープン(非独占的)で相互運用可能なサービスへのコミットメントの強化を図る。
  • オンデマンドで、ビジネス全体に関わる洞察を生成する能力を強化する。
  • 意思決定のために社内の連携を強め、アジリティーを高めることで迅速なイノベーションを推進する。
  • リーダーシップの更新周期の短縮化や、組織・運用に有用となる情報共有の強化、部門間コミュニケーションおよび意思決定の強化などを伴う、ガバナンスと生産性をモニタリングする。
CTO と CIO には、デジタル技術を最大限に駆使して運用のレジリエンシーや柔軟性を高める、詳細な事業継続計画が必要である。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高執行責任者(COO)
    閲読に要する時間: 4分
    2019年までは、企業や政府、その他多くの組織・団体にとって、オンサイトを前提とした運用モデルがごく一般的だった。例えば、これまでは仕事が人のところに来るのではなく、人が仕事をしに行くのが当然であり、顧客やクライアントは、行政サービスの活用・医療機関での受診・食料品の購入・イベントへの参加など、何かをするためには特定の場所に物理的に移動することが大前提だった。
    新型コロナウイルス感染症は、これらすべてを変えた。今や、私たちはどこにいようとも、そこで仕事ができなければならない。そして、従業員・顧客・協力会社とリモートでつながることを前提として、あらゆることを捉えなおす必要がある。この、いわば強制的な「デジタル変革」に、スムーズに対応できた企業もあるが、行き詰まりを感じつつ懸命にその取り組みを進めている企業も少なくない。
    仮想マシンから物理マシンへの移行を継続的に成功させ、新たに見いだした俊敏性や技術革新を活用するための鍵は、クラウドにある。今後企業は、クラウド・ネイティブがもたらす計り知れない利益を得るために、運用をモダナイズし続ける必要がある。そうすれば、場所への非依存性、スキルの柔軟性、拡張性、レジリエンシー、相互運用性、いわゆるクラウド・デリバリーとも呼ばれるリモートでのエンゲージメントやデリバリー・モデルへのシームレスな移行など、さまざまな恩恵が享受できる。
    デジタル変革実現に向けたどのフェーズにあっても、COOは、それまでに学んだことから運用上の教訓を得ることができる。第一に、かつてクラウドは未来予想における最終理想形であったが、今ではごく普通の一般的な環境になった。第二に、企業は期せずして迅速に行動したり、想像以上の俊敏性を身に付けた。第三に、デジタル変革の成功と高速化を妨げていた従来の合理化のあり方は、もはや許容されなくなった。俊敏なデジタル企業になることは不可避であり、今まさに、それを実現する時である。
    このことは、CEOをはじめとする経営層の考えにも現れている。経営層の79%が、今後2年間は、企業の俊敏性をビジネスの中心的なコンピテンシーとして優先すると述べた。
    この変化は、最近目覚ましい進歩を遂げている医療分野において特に重要である。例えば、ある医療機関では、在宅療養中の患者向けに 新型コロナウイルス感染症用のアプリケーション を迅速に展開し、3千人を超える人々を支援している。患者は症状を自身で経過観察し、それに基づきリモートで医師にアドバイスを求めることができる。別の例では、欧州の大規模な行政機関が、 オンラインの社会サービス給付金用のアプリケーションを拡張 し、急増するユーザーの需要に応えている。また一方で、仮想デスクトップ・インフラストラクチャー(VDI)は、ソーシャル・ディスタンスによる影響を克服すべく急速に展開されている。
    新型コロナウイルス感染症による危機の最中に、COO が求めたものは俊敏なアクションであり、その鍵はセキュアなクラウド・テクノロジーであった。
こうしたセキュアなクラウド・テクノロジーによって可能となるすべての取り組みは、効率性を促進し、新しい業務慣行を支援して、変革やモダナイズの原動力となる。パブリック・クラウドとハイブリッド・クラウドを採用している企業は、この危機を、今までよりも強く、優れた、レジリエンシーの高い企業となる機会と捉え、すでに利用し始めている。
レジリエンシーは、計画・ガバナンス・俊敏性の組み合わせから生まれる。COOがすでに備えているべき能力や機能は以下のとおりである。
  • 社内外のチームに影響を及ぼす重要な意思決定など、部門を超えたリーダーシップ強化のための、周期的な会議体・コーチング等の計画と導入
  • セキュアなクラウド・ベースの生産性戦略プラットフォーム、デバイス・プロファイルやVPNとは独立して動作するゼロ・トラストの対話モデルなど、リモートワーク向けに再設計されたターゲット・オペレーティング・モデル
  • 一般企業向けにデジタル化されたパフォーマンス・メトリックを利用した、透明性・可視性・説明責任能力などの向上
  • モジュール式で、かつローカライズされ、分散されたインフラストラクチャー、および必要に応じてパートナーとの協業など大規模なリソースの動員を含む、労働力と職場の柔軟性とレジリエンシー
  • クラウド化されたデリバリーの基盤を実現するための前提となる、レジリエンシーと拡張容易性の高いインフラストラクチャーや、広範囲なプラットフォームとツール、および組み込みのセキュリティーとプライバシーなどを備えた、クラウド・ベースのセキュアなデリバリー・プラットフォーム
  • 生産性向上に寄与するオファリングの標準化や、大規模なコラボレーションと革新を共に促進できる、アプリケーションやデバイスのコモディティー化のためのユーザー選択肢の拡大と高速化
  • 「仮想ファースト」の世界におけるユビキタス仮想知識と人材の全体管理
  • デジタル店舗を通じた発見と、エンゲージメントのために再パッケージされたオファリング、および「as a service」デリバリー用に設計されたオファリング
COOが長期的な優先事項のアセスを進めることで、究極的にはより大きなフットプリントに沿った運営を行うことになり、結果的に利益は拡大することになる。新型コロナウイルス感染症の影響により、全世界で急激な俊敏性へのシフトが起こり、大きな影響をもたらしている。
新型コロナウイルス感染症による危機の最中に、COOが求めたものは俊敏なアクションであり、その鍵はセキュアなクラウド・テクノロジーであった。そして今、経営層の79%が、今後は企業の俊敏性を優先する方針であると回答している。
COOは、以下の変化に対する計画を立てておく必要がある。
  • クラウドに対応した運用モデルにより、サービス経済が急成長することになるが、このことは主要なコモディティー・サービスに加え、専門サービスの特定分野でも採用が急増することで裏付けられるだろう。とりわけ、最も重要な「サービス」の1つは、専門リソースへのオンデマンド・アクセスである。
  • ミッション・クリティカルな運用と資産がクラウドにのみ移行された結果、レジリエンシーの強化のみならず、ワークロードをコモディティー化し、コストを最適化することが可能になる。
  • 効率的でセキュア、かつ俊敏なマルチクラウド管理は、メインフレームのモダナイゼーションの加速および重要なデータ・アーキテクチャーの変換と相まって、事実上のミッション・クリティカルなコンピテンシーとなる。
  • 財務モデルは、クラウド・エコシステムやトラスト・ネットワーク内のサービス・パートナーからの高度なデータ入力に基づいて、動的な運用要素にリアルタイムで調整される。
  • オンデマンド・ソーシングは、信頼性の高いブロックチェーン対応のプラットフォームを通じて、一層シンプルで一般的な、欠かせないものとなる。
  • 顧客エンゲージメントは、顧客の獲得と維持、サービス提供のために仮想空間において最適化される。場所依存型の顧客体験は、デジタル世界のファン層を取り込むリモート・プラットフォームによって補完される。
  • 自動化やAI、その他の先進テクノロジーの採用拡大は、効率性のみならず、品質やセキュリティー、コラボレーション、革新などを促進する。デジタル・サービスへの移行は、旅行や物理的な移動に対する企業の依存度を軽減する。
  • 世界中で大規模なデリバリーを可能とし、混乱のリスクを軽減するのに役立つクラウド化されたデリバリー・モデルは、今後世界標準となる。
新型コロナウイルス感染症による危機の最中に、COO が求めたものは俊敏なアクションであり、その鍵はセキュアなクラウド・テクノロジーであった。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高情報セキュリティー責任者(CISO)
    閲読に要する時間: 3分半
    新型コロナウイルス感染症の影響に世界が苦しむ中、サイバー犯罪者がその動きを活発化させている。彼らはパンデミックの機に乗じて、フィッシング・キャンペーンや、悪意のあるドメインからの標的型マルウェアやランサムウェアなどの多種多様な 新手の攻撃を開始しつつある IBM X-Force は、2月以降、コロナウイルス関連のスパムが4,300%増加したことをつきとめた。サイバー犯罪者は、ダークウェブ上でのウイルス関連マルウェア商材の販売から、割引コードの発行に至るまで、コロナウイルスの発生を自分たちのビジネスに悪用できないかさまざま試みている。彼らはまた、ドメインの作成も急ぎ進めている。新型コロナウイルス感染症関連のドメインは、同じ時期に登録された他のドメインよりも 悪質である可能性が50%も高い
    サイバー・セキュリティーに対する準備が不足している企業は、最も脆弱な部分を狙われることになる。実際76%の企業には、会社全体に一貫して適用されるインシデント対応計画がない。さらに驚くべきことに、4分の1もの企業には、計画そのものがないのである。ただ、たとえレジリエンシーのある企業でさえ、このパンデミックの先の見えない状況に限界を迎えつつある。
    あらゆる企業は、現在の緊急事態を踏まえた上で、自社のサイバー・レジリエンシーを再評価すべきである。このことは、調査データからもその必要性が証明されている。例えば、コロナウイルス発生の前後を比較した調査によれば、サイバー・セキュリティーをビジネス・コンピテンシーとしてさらに優先するようになったと回答した経営層の割合は、30%近く増加している。
    リモートワークへの急速な移行は、サイバー犯罪者に新たな抜け道を提供することとなった。多くの在宅勤務の従業員は、デジタルの安全性を最大限に確保可能な機器や通信接続手順を備えていない。従業員が企業ネットワークに個人用デバイスからアクセスするとき、ハッカーはWi-Fi構成やVPN接続の脆弱性を探っている。クラウド・ベースの生産性戦略プラットフォームに人々が集まると、悪意のある攻撃者はその状況を利用して、 ハッキングしたり、ライブ・ミーティングを妨害したりする 最近行われたThreatpostのオンライン投票 によると、リモートワークを始めた途端、サイバー攻撃が増加したと報告した回答者は、全体の40%にも上った。
    CISOは、自ら先頭に立って自社の計画・対応の仕組みの改善に取り組む必要がある。すでに実施しておくべき対策は以下のとおりである。
    • 職域を超えたメンバーから構成される、運用状況の健全性およびリスク指標をプロアクティブに追跡する危機管理センターの設立。追跡すべき対象には、従業員、クライアント、パートナー、サード・パーティーの協力会社などが含まれる。
    • 企業の準備度を評価する、ライブ・シミュレーション演習に基づくインシデント対応プレイブックの作成
    • リモート導入可能なフォレンジック・ツールの推奨セットや、デジタル・エビデンスを明確に追跡調査可能な仮想サイバー・インシデントの報告および対応
    • 増加し続けるリモート・ワーカーのセキュリティー確保。そこには、モバイル・デバイスやラップトップの統合エンドポイント管理、ユーザー・アプリケーション・データを保護するIDとアクセス管理なども含まれる。
    • セキュリティー・チームの能力を迅速に拡大させたり、専門領域のスキル増強や専門家への協力を必要に応じて行える、リモートおよび仮想セキュリティー専門家・分析者へのアクセス
    • 特別に「機密」指定された文書や情報に関する管理方法、共有権限、ツールおよび保管
    • 新たな脅威やフィッシングのリスクに関する、社内および社外パートナーとの積極的なコミュニケーションの実施
    • VPN容量の拡大、エンドポイント検出機能、およびその他のセキュアな接続と検査技術の導入
    • 承認されたコラボレーション用のアプリと、安全な使用に向けたトレーニングのための明確なガイドラインの策定
    今、多くの企業がサイバー・セキュリティー対応を強化している。あるヨーロッパの保険会社は、ここ数週間の間に、 サイバー・セキュリティー・インシデント対応のための 中核となる新しい 仮想ハブ を実装し、グループ企業を含めた全社での脅威の監視を始めた。
    現在の在宅ワークの必要性から、より多くのワークロードやユーザーのクラウド運用への移行が加速するにつれ、サイバー・セキュリティーのレジリエンシーは、基本的なパフォーマンス要件から競争優位性を獲得する促進要因へと進化するだろう。先進的として始まったものが、普遍的なものとなって浸透していくのである。
    より成熟したサイバー・セキュリティー対策・運用に向けて、CISOが踏むべきステップは以下のとおりである。
    • セキュリティー・テレメトリーと分析を実施する。早期の発見と対応には、データの自動収集が必要となる。最新のテレメトリーの利用とログ・ファイルの収集・分析から、攻撃ベクトルをモデル化し、識別記号を作成すれば、違反事象の再現が可能になる。
    • セキュリティーの自動化機能を開発する。Ponemonの調査によれば、セキュリティーの自動化に対する投資は、採算が取れる。自動化が未導入な企業は、本格的に自動化が導入された企業と比べ、違反への対応に割くコストが95% 高くつくと報告されている。
    • 脅威インテリジェンスの活用については、それ自体の強度を高める副次的効果も期待されるため、可能な限り推進する。クラウド・ベースのセキュリティー・サービスは、単独の企業よりもはるかに大規模な運用領域のトラフィックを監視し、すべての企業のサイバー・レジリエンシーを強化する脅威インテリジェンスのデータを提供する。脅威インテリジェンスを活用することで、検出と対応の迅速化が可能となる。
    • コラボレーションや継続的学習を優先させる。サイバー・レジリエンシーのある企業は、発見・学習・適応・反復という継続的サイクルに基づいた運用を行っている。危機的状況における脅威から効率的に回復できるかどうかは、各個人が複雑な問題に協力して取り組める能力があるかどうかにかかっている。
    • セキュリティーに対する意識を高める。セキュリティーは、戦略的な手段の1つと考えられる。ある調査によると、サイバー・レジリエンシーのある企業の51%が、サイバー脅威の防止・検出・封じ込め・対応などの取り組みの有効性について、経営幹部と取締役会への報告を行っている。
    • 脅威防止のための先進的な取り組みを加速する。CISOは、高度な脅威の抑止と修復に役立つ専門サービスの提供を可能にするマルチクラウド管理の利点を考慮に入れて、フォレンジック分析や脅威の検出に熟達している必要がある。
    • デジタルに対する信頼を醸成する。クラウド・エコシステムが、どのようにしてトラスト・ネットワークへと進化を遂げているのかを考えてみるべきである。相互依存のパートナー関係においては、セキュリティーは連帯責任であり、レジリエンシーはビジネス全体の利益となる。リーダーは、パートナーとの共同作業により、ユーザーやID、エンドポイント・デバイス、運用資産に関する共通のガバナンスを確立する必要がある。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高財務責任者(CFO)および最高サプライチェーン責任者(CSCO)
    閲読に要する時間: 3分
    企業は、資材や部品などが、いつ、どこで、どのように必要になるかを予測して、サプライチェーンを構築する。新型コロナウイルス感染症による危機は、この前提を完全に覆した。つまり サプライチェーンを、より動的に 即応性が高く、企業のエコシステムやプロセスと緊密に連携したものへと変革することの必要性を提起したのである。
    企業はまた、流動性についても重大な課題に直面している。ある見解によれば、 世界の公開企業の20%以上が 、何らかの介入が行われなければ、今後6カ月以内に 現金不足に陥る とされている。新型コロナウイルス感染症の影響は業界によって大きく異なるが、回復軌道に乗るためには「ニューノーマル」に合わせてバランスを取り直す必要がある。
    今日のサプライチェーンは、信じ難いほど複雑で、世界的規模で無数のパートナーが貿易エコシステムを構成し、互いに絡み合いながらいくつもの販売地域に分散している。サプライチェーンのリスクを把握するためには、トップ層をはるかに超えて、ティア2およびティア3のサプライヤーの可視性を担保しておく必要がある。これら層のサプライヤーは、規模は比較的小さくても、生産ラインを即座にかつ大規模に停止させる可能性があるからである。2020年初頭の操業停止は、サプライチェーンの地理的多様性に対する強い関心の喚起という波及効果をもたらした。最近の報告によると、 Fortune 1000にランキングされた企業の実に90% 以上が、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックの初期段階において、最も大きな影響を被った中国国内にティア2のサプライヤーを抱えていた。
    サプライチェーンに関するきめ細かいリアルタイム・データは、「あるに越したことはない」程度のものから、「必須な」ものへと変化した。需要変動は超地域密着型の様相を呈し、ある都市では在庫が過剰になり、別の都市では供給が追いつかなくなる。その一方で、新型コロナウイルス感染症の拡散とパターンに関するマクロ・データを、供給や在庫のデータに重ね合わせることで、フローと需要を予測することができる。多くの企業にとって、数日の時間節約の可否が、危機的事態に対する準備とそこからの回復の両面において、大きな差をもたらす可能性がある。
    CSCO と CFO がよりスマートなサプライチェーンを構築するには、統合されたデータとテクノロジーが不可欠となる。よりスマートなサプライチェーンは、コスト削減を促し、将来の破壊的なビジネス・チャンスへの迅速な対応を可能にする。
幸いなことに、先の不況における「緊縮的」なアプローチと比べると、今日のコストに対する問題に利用できるツールやアプローチは、はるかに高度かつ効果的になっている。今では、より効率的かつ効果的な、新たなパフォーマンス・フロンティアへ飛躍する機会にもなり得る。CFOとCSCOは、明日へのよりよい備えのために、今日の問題点を分析しなくてはならない。何が起こるのかを予見することは誰にもできない。しかし企業は、AIや自動化、ブロックチェーン、IoT、5G、エッジ・コンピューティングといったテクノロジーを活用することで、スマートにコストを再調整し、さらにスマートなグローバル・サプライチェーンを構築することができる。想像を絶するようなことを、「現実に期待できること」へと変えることができるのである。
すでに、俊敏性に対する価値が上昇し始めている。例えば、ヨーロッパの一部の企業では、経費が増加するにも関わらず、海上輸送からより高速な 鉄道輸送 への切り替えが起こり始めている。サプライチェーン・パートナーと協力して、体系化された危機支援システムを構築することは、レジリエンシーを獲得する1つの方法であると言える。サプライチェーンに限らず、ビジネスが再形成され、財務状況が厳しくなる中で、明らかに重要性を増してくるのは俊敏性とスピードである。これまでとは異なる「ニューノーマル」において、さらなる強さを発揮するためには、コスト構造を見直し、ビジネスモデルを再構築する必要がある。このことは、ビジネス基盤や優先順位、組織モデル、コスト構造、および業務の遂行や達成の方法を再考する上で、決定的な行動指針となるであろう。私たちは、これがクラウド・ベースの「as a service」モデルの急増や、自動化、AI、ブロックチェーン、IoT、そしてその他の最新テクノロジーを備えた必要不可欠な企業ワークフローの再設計、さらには、吸収合併を通じた抜本的な経費の削減やビジネスの再構成などを早期化するものと期待している。
この危機の最中、そして来るべき「ニューノーマル」において、CSCOとCFOがよりスマートなサプライチェーンを構築するには、統合されたデータとテクノロジーが不可欠となる。よりスマートなサプライチェーンは、コスト削減を促し、将来の破壊的なビジネス・チャンスへの迅速な対応を可能にする。
CFOとCSCOが予め実施しておくべき対策は以下のとおりである。
  • 政府の景気対策や資金援助など、関連する代替資金源へのアクセスと、その保護手段を提供することで増強された現金・流動性資産の管理
  • ティア2およびティア3サプライヤーを含む、サプライチェーンのリスク評価
  • 需要の急激な変動に対して、注文/在庫のバランスを最適化し、混乱に迅速に対応するためのリアルタイムのツールと分析
  • グローバルとローカルとの比較に基づく、ソーシング戦略とサプライヤー・ネットワークの再評価
  • 重要度に応じた在庫の再配置と優先順位の設定
  • 在庫変動および労働力を含む物流上の制約についての地域ごとの可視化
  • 供給能力に関する相対的な優先度と信頼度に応じた、顧客のセグメント化の検討
  • 需要が一時的に落ち込む分野では迅速にコストを削減し、体質強化のために必要となる将来の環境と適応力を念頭に現在の投資を評価
来る「ニューノーマル」への準備段階において目標とすべきことは、データとテクノロジーをよりよく統合して、よりスマートなサプライチェーンを構築することである。これは、現在進行中の危機だけでなく、将来における予測不能な「ブラック・スワン」事象においても有効であり、また体系的な運用コスト削減に留まらず、機会に応じて適宜ビジネスをより優れた結果へと導く。
ここで2つの中心的なツールを紹介したい。1つは、広範囲に及ぶ結果を仮想的にシミュレートできるデジタル・ツイン、もう1つは、企業規模の運用可視性とAIにサポートされた意思決定を集中型デジタル・ハブに提供する「管制塔」である。これらは、データ中心の協働的な文化と相まって、サイロ化を防ぐのに有用である。インテリジェントなワークフローは、サイロを分解し、融合的なテクノロジーを活用して、エンド・ツー・エンドの自己学習型および自己修正型のサプライチェーンを提供するからだ。
これらのツールは、接続されたIoTおよびブロックチェーン機能と組み合わせることで、自社商品が世界のどこにあるかを企業がリアルタイムで把握できるようにする。また、そのことで潜在的な脆弱性や破壊的変化が上流および下流工程にどのような影響を及ぼすのか、CFOとCSCOがより的確に理解できるようサポートする。これらすべては、従来のツールよりも基本的には低コストで、より迅速な対応を可能にするものだ。
CFOとCSCOがスマートなサプライチェーンを定義し、長期的な視点で運用を再構築する方法は以下のとおりである。
  • 単にグローバルやローカルのみならず、直に現場の観点から、外部公開データ、専有データ、そして戦略的なパートナーのデータなどを組み合わせることで、地域別のデータと評価を利用して需要と供給を一致させることにより、信頼性と効率性を向上させる。
  • エンド・ツー・エンドのサプライチェーン全体でリアルタイム・データの活用と調整を行い、継続的なコラボレーション計画を展開する。これにより、混乱と脆弱性の予測、迅速なシナリオ計画の策定、および修正アクションに関する洞察の提供を支援する。
  • 統合AIおよびデジタル「管制塔」の導入により、サプライチェーンのフローをエンド・ツー・エンドに可視化することで意思決定を加速する。
  • サプライヤーのネットワークを再設計することで、運用上の柔軟性を向上させる。
  • 流動性の維持と成長のための投資に対するコストを最適化する。ゼロ・ベースのコスト予算編成により、コスト構造を再評価および再設計する(すべての経費は、新たな決算期間ごとに正統性を吟味され、承認される必要がある)。
  • デジタル・ツインを介したモデリングとシナリオ分析を活用し、リーン・オペレーションとリスク軽減との間の短期的および長期的なバランスを評価する。
  • 生産、流通、およびオフィス・ビルなどの不動産面積の再評価を実施する。インテリジェントで効率性の高い運用と利用を目標に、生産性最適化、資産保守、オフィス・ビルについてエッジおよびAI対応の自動化を検討する。
  • パートナーシップと拡張ネットワークを介して、クラウド・ベースの「as a service」型プラットフォーム、および代替のデリバリー・モデルの採用または開発を加速する。
  • 自動化やAI、ブロックチェーン、IoT、その他の最新テクノロジーを備えた必要不可欠な企業ワークフローの再設計により、サービス提供コストと俊敏性を一新する。
CSCO と CFO がよりスマートなサプライチェーンを構築するには、統合されたデータとテクノロジーが不可欠となる。よりスマートなサプライチェーンは、コスト削減を促し、将来の破壊的なビジネス・チャンスへの迅速な対応を可能にする。
  • 推奨されるリーダーシップ: 最高医療責任者と公共部門のリーダー
    閲読に要する時間: 3分半
    米国では、最低限の社会機能を維持するために必要不可欠と判断された企業以外、ほとんどの企業が当局の指示により閉鎖を余儀なくされた。だが、そのわずか数日前には、 米国の疾病予防管理センターは新型コロナウイルス感染症 に関して次のように述べていた。「大多数の人々にとって、新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルスに晒される直接的なリスクは低いと考えられる」。そしてその直後に、データ・計画共に変更されたのである。
    新型コロナウイルスによって引き起こされた劇的な変化は、医療従事者や医療機関、また多くの行政サービスに深刻な影響をもたらした。今、多くの市民に対する支援提供のために、テクノロジーによる俊敏性向上が求められる領域があるとすれば、それはまさにこのような医療や行政の現場であろう。
    Watson™ Assistant: 高速かつ正確な応答の実現
    新型コロナウイルス感染症が発生したとき、市民は症状や検査場所、学校や交通機関の状況、そしてあらゆる公共サービスについて、必要な情報を探し求めた。しかし、そのことで政府機関や病院、学校、非営利団体および企業は、たちまち逼迫した状況に追い込まれた。市民の質問に対する回答の待ち時間は、時に数時間にまで及んだ。こうした状況のすべてが、市民や顧客、従業員の安全を可能な限り保持しようとする取り組みの妨げとなった。
    IBMは、IBM Researchが持つWatson Assistantの自然言語処理機能と、Watson Discoveryの業界最先端の企業AI検索テクノロジーを統合して、状況の改善に一石を投じた。目標は、新型コロナウイルス感染症に関するよくある質問を、Watson Assistantが理解して回答できるように学習させ、IBMパブリック・クラウドからサービス提供できるようにすることだった。
    「重要な情報を市民に発信するために、政府機関や保健機関がAIを利用できるよう支援することは、現在も依然として最優先事項である」と、IBM Data & AI本部長であるRob Thomasは述べた。「今日の環境では、あらゆる業界のあらゆる企業が、クライアントや従業員とデジタルでつながる方法を見いだす必要性があることは明らかだ。IBMは、先進的なAIテクノロジーに関する長年の経験を、新型コロナウイルス感染症の危機に適用している」
    Watson Assistantは、米国疾病予防管理センターのような外部ソースから提供される、目下利用可能なデータを活用して、米国各地および世界中の政府機関や保健機関を支援するために導入された。その範囲は、カリフォルニア州ロサンゼルス郡ランカスター市から、ニューヨーク州のオトセゴ郡、チェコ共和国の保健省、ギリシャのデジタル・ガバナンス省にまで及んだ。
    さらに、アーカンソー医科大学においては、IBMは仮想エージェントをわずか9日間で導入した。このエージェントは、検査・症状・情報源などに関する質問にすばやく回答するとともに、必要に応じて、問い合わせを新型コロナウイルス感染症のトリアージ用移動式診療所にオンラインで転送することで、対応を迅速化した。Children’s Healthcare of Atlantaは、Watsonの仮想エージェントを使用して「新型コロナウイルス感染症小児科評価ツール」を構築した。このツールは、一連の質問に対する保護者の回答に基づき、保健機関システムで策定された手順に則って後続のステップを提案する。スペインでは、アンダルシア政府の仮想エージェントが、「Salud Responde」と呼ばれるアプリケーションと公的医療機関のWeb サイトとの双方を活用し、新型コロナウイルス感染症に関する市民からの問い合わせに対応している。英国では、CERiという名の英語とウェールズ語を話す仮想アシスタントがまもなく稼働し、ウェールズ地方の医療従事者および一般市民を支援する予定である。
    変化するニーズを満たす鍵として、重要な要素を1つ挙げるとすれば、人間中心のテクノロジー・インターフェースを拡張および構築することだろう。これは、正しい処置・ワクチン・治療法を見いだそうと奔走を続ける、政府内外の科学者、研究者、医療専門家を支援することから始まる。またここには、今日の一般市民の身体的、精神的、経済的な健全性確保のために、サポートを提供している人たちも含まれるだろう。
    今は、人間中心のテクノロジー・インターフェースの利用を拡充することが重要となっている。これにより、正しい処置・ワクチン・治療法を見いだそうと奔走を続ける人々への支援や、一般市民の身体的、精神的、経済的な健全性確保のための支援が可能となる。
U.S. Digital Response と命名された、ボランティアの運営による新たなテクノロジー組織は、すでに自治体が新型コロナウイルス感染症を報告するメカニズムの自動化を支援している。またこの組織は、これまで地方自治体が対面でしか提供してこれなかった 市政サービスを、リモートでも利用 できるよう支援している。
他の保険機関や政府機関は、人手を介さず顧客の問い合わせに対応する人工知能の一種である、仮想エージェント・テクノロジー(VAT)を使ってコンタクト・センターを増強している。よくある質問には自動化機能とAIが迅速に回答するため、人は、例えば誰かに訃報を伝える必要性があるときなど、より複雑で人間味のある共感が必要な案件に集中して取り組むことができる。以下にその例を挙げる。
  • ニューヨークのオトセゴ郡では、市民からのパンデミックに関する質問に迅速に回答すべく、新型コロナウイルス感染症関連の情報を公開している。オトセゴ郡の新型コロナウイルス感染症用の仮想エージェントは、「失業保険給付はどうやって申請したらよいか」といった市民からの質問に自動で回答している。
  • チェコの保険省は、「Anežka」という女性の名前による新型コロナウイルス感染症用の仮想エージェントを使って、パンデミックに関連する予防や治療、その他のトピックについて市民に助言を行っている。
また、仮想エージェントやその他のデジタル支援機能は、保険給付金や受給資格についての判断を高速化したり、強化したりするのにも役立っている。グレート・ロックダウン開始からの5週間で、米国では2,650万人を超える人々が 失業保険の給付金を申請した。これは、過去最も多かった申請者数の10倍を上回っている。
これらの申請の迅速な処理は、食料・薬品・住居を確保できていない人々にとって、生死に関わる問題である。仮想エージェントは、人的介入に先立って申請者からの情報を収集し、顧客担当者に応答の仕方やコンテキストを提案するようトレーニングされている。バックグラウンドで実行されるデータ分析によって、必要な人に適切な介入を実施できるようになり、またIDの検証や認証を有効にすることで、不正申請の防止にもつながっている。
医療従事者と公的機関のリーダーが、直ちに実施しておくべき項目は以下のとおりである。
  • パンデミックが市政サービスと事例管理に及ぼす影響の継続的評価
  • 申請の大幅な増加に備えた給付資格決定機能の増強
  • よくある質問への自動応答によって、人手を解放する仮想エージェントの導入
  • 動画や文書共有、インスタント・メッセージングなど、社内のコラボレーションを目的としたマルチチャネルのコミュニケーション・プラットフォームの構築
  • 市民の継続的な意識と関与を促すための緊急連絡用システムの整備
  • 安全かつ効率的な職場復帰のための市民・従業員のモニタリングや、フィードバック・システムに関する明確な導入計画
パンデミックの影響に対する長期的な視点の1つに、健康や政府に関わる情報・サービスに瞬時にリモート・アクセスできることへの市民の期待がある。この期待に応えることが、保健システムへの関心とレジリエンシーを高め、ひいては失業による弊害への対応にも役立つ。人間と機械の強みを融合した高度な戦略の展開は、市政や産業全体のみならず、経済や社会全体にわたって、新たなリモートワーク・チームの効率的な再統合に向けた準備段階において、中核的機能を果たすだろう。
次の段階として、より長期的な観点での医療従事者と公的機関リーダーの優先事項は以下のとおりである。
  • 市民とのコンタクト・ポイントがすべてテクノロジー・ベースで構築された、直感的かつ使いやすい対話機能の提供
  • 仮想アシスタントのアップグレードによる、ケースワーカーの効率性向上と最適化
  • 必要な人に適切な介入ができるように、対象の選定を可能にする統合型データ分析
  • 市民の「単一ビュー」を確立することにより、市民の観点から政府のやりとりを簡素化し、市民のニーズに応えるためのコラボレーション強化
  • 身元の検証や認証、および不正な支払いを防止するためのリアルタイムでの追跡実施による、不正やエラーの削減とプログラムの整合性強化
  • 公衆衛生の事例、ワクチン、流通、および設備を追跡するための分析機能強化
今は、人間中心のテクノロジー・インターフェースの利用を拡充することが重要となっている。これにより、正しい処置・ワクチン・治療法を見いだそうと奔走を続ける人々への支援や、一般市民の身体的、精神的、経済的な健全性確保のための支援が可能となる。
「ニューノーマル」に備える
新型コロナウイルス感染症では、多数の死者が出たことで社会に混乱を来し、経済に影響が及んだ。このような地球規模での公衆衛生危機が、ごく稀にしか起こらないことだけが、せめてもの救いかもしれない。他者や自身への感染を防ぐために、人々は自宅にこもることを強いられた。そして、これが世界中の国で一斉に行われるという、未曽有の事態にまで発展したのである。感染予防の行動規定、それ自体が雇用の喪失・計画の破断・将来ビジョンの凍結など、大きな犠牲を強いるものである。誰も最終的な影響がどう及び、いつ状況が改善するのか、いつ時代を先取りした行動ができるのか、世界がどのようになっていくのか、知る由もない。
しかし、私たちが生きるこの時代には、幸いにも高度なデジタル・ワールドというアドバンテージがある。リモート接続できるネットワークがある。広範な種類のデバイスやソフトウェア、テクノロジーにより、過去の時代には実現不可能であった方法で、運用や計画、そして現在の危機への対応ができている。そういった観点では、私たちが現在経験している変化は、未来への備えでもある。
分散型作業、リモート作業環境、拡張されたデータとアナリティクス、AIと機械学習など、これらすべては、すでに多かれ少なかれさまざまな形で利用されている。今私たちは、これらのテクノロジーをより積極的に活用し、今日の特異な状況に対処しなければならない。その過程で、当座のニーズに終始することなく、人間のあらゆる英知を総動員して、さまざまな可能性を探る必要がある。
精神的な課題は肉体的な課題と同じくらい重要であり、私たちが適応していく上で役立つ洞察と知恵をもたらしてくれる。私たちは今、創造性、流動性、適応性の価値について、学び直しの途上にある。これまでの想像を絶するような多難な道も、チームと共に豊富なリソースを糧として乗り越えてきた。いまだ多くのことが不確実な今、「正解」はどこにもない。そこにあるのは、絶え間なく進化するさまざまな可能性、そして、よりよい未来を創り出すことへの揺るぎない信念のみである。目標は、これらの可能性を将来的なビジョンへと向かう推進力にすることである。危機は過ぎ去る。その先の未来は、私たちにかかっている。
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