ホーム生成 AI

エコシステムの力でイノベーションを生み出せ

CEOのための生成AI活用ガイド第10弾 ー オープン・イノベーションとエコシステム

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第十弾として「オープン・イノベーションとエコシステム」をお届けします。

 

イノベーションは自社だけでは起こせない

 

イノベーションは、いわばチーム・スポーツのようなものです。いかなる組織も単独では、画期的な成果は生み出せません。ソリューションやサービスのプロバイダーがそのスキルと能力を結集し、エコシステム・パートナーとして戦略的に連携することが、真に革新的なイノベーションを生むためには不可欠です。IBM IBVが過去に実施した調査によると、エコシステムに投資する組織は収益成長が同業他社を40%上回っていました。生成AIの時代を迎え、今後こうした投資は収益をより増大させるはずです。

生成AIは、エコシステムに参加するすべての組織の協力から生まれる集合知を、素早くかつ容易に活用することで、エコシステムからイノベーションを起こすための起爆剤となる可能性を秘めています。共有された専門知識を統合することで、生成AIは大きな問題の解決策についてアイデアを生み出し、どの製品が最も大きな成功を収めるかを予測し、プロジェクト計画を最適化することができます。しかし、こうした統合が成功するかどうかは、膨大なデータの蓄積、大規模な演算能力、必要とされるスキルの有無にかかっています。

生成AIを使って競争優位性を獲得するには、エコシステム・パートナーが、互いに労力をいとわず、社内外の壁を取り除かなくてはなりません。生成AIが必要とするデータは複数の組織、アプリケーション、サイロ、クラウド、データレイク(構造化データと非構造化データを保存するための一元化されたリポジトリー)に遍在しています。そのため、オープン性が要となります。

もちろん、オープン性には常に優れたガバナンスが伴わなければなりません。CEOはイノベーションを進める際には、エコシステムのパートナーが適切な人材、テクノロジー、顧客関係を有していることを確認し、自分たちと共通する原則や価値観を持っているかどうかを評価しなければなりません。次世代型の生成AIモデルの時代の到来が急速に迫る中、エコシステムによるイノベーションは、透明性と信頼性を堅固な基盤の上に築かなくてはならないのです。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「イノベーション + 生成AI」

生成AIは、イノベーションとエコシステムがもたらす価値を一新します

 

生成AIは、単なるイノベーションのための新たなツールではありません。それはイノベーションを生み出すワークショップそのものです。

日々、生成AIを使って、作業の自動化やビジネス上の意思決定、将来の革新を生み出す計画の立案などを行う新しい方法が発見されています。リーダーはこうした動きに後れを取ること看過しません。

CEOのほぼ半数が、生成AIの導入を急ぐようビジネス・パートナーから圧力をかけられていると感じており、経営層の3分の2はイノベーションに生成AIを直ちに取り入れる必要があると回答しています。しかし現在、イノベーションとリサーチに生成AIを導入・運用している組織はわずか39%に過ぎません。

 

経営層の3分の2はイノベーションに生成AIを直ちに取り入れる必要があると回答しています。 しかし現在、イノベーションとリサーチに生成AIを導入・運用している組織はわずか39%にとどまります。

 

先駆者として新たな道を切り拓く組織は、大きな見返りを得るでしょう。イノベーションで他社に優る組織は、年間の収益成長が同業他社を74%上回っています。生成AIは、ワークフロー全体を変革することで、エコシステムのイノベーションをさらに一段階向上させます。経営層の多くが、生成AIは、アイデア考案(80%)、発見(82%)、イノベーションのためのパートナーとのコラボレーション(77%)、イノベーションの実行(74%)を大幅に改善すると答えています。

この機会を最大限に活かすためには、CEOはビジネスのオペレーションを全体的に見直すべきです。戦略全体を俯瞰しつつ、一から戦略を練り直す努力も厭わないことで、エコシステム内のパートナーとの連携から価値を提供し、また逆に価値を受け取る方法を新たに見つけられるようになるでしょう。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「イノベーション + 生成AI」

イノベーションを起こす方法をイノベーションします

 

生成AIを活用して、イノベーション・サイクル全体を通して、創造性を喚起し、コラボレーションを進めましょう。エコシステム全体に散らばる専門知識を結集することで、複雑な問題を解決し、競争力のある製品を開発し、従来のビジネスモデルを打破します。

 

  • 生成AIをイノベーションのゲーム・チェンジャー(変革の手段)として活用しましょう。イノベーションで生成AIの力を最大限活かすためには、イノベーションのオペレーティング・モデル全体を変える必要があります。イノベーションの効率と効果を高める変革の機会として、生成AIを活用しましょう。
     
  • 生成AIによる拡張と自動化をイノベーションに活かしましょう。イノベーションのワークフロー全体に生成AIを取り入れて、スピードを加速させ、規模を拡大し、効果を高めます。自動化によって社員をルーチンワークから解放し、社員が組織全体のイノベーションのワークフローにより大きく関与できるようにしましょう。
     
  • 大規模な実験を行いましょう。生成AIをイノベーションに活用する方法について仮説を立て、試験を行い、管理された方法で調整を行います。生成AIを使ったイノベーションと「人手」によるイノベーション、それぞれの成果同士を比較して評価し、価値を測りましょう。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「人材 + 生成AI」

イノベーションが常態化します

 

生成AIは従業員をルーチンワークから解放し、未開発の能力を開花させる力を秘めています。しかし生成AIでイノベーションを進めようとしても、組織の内外に存在する制約が、せっかくの能力を阻害している場合が少なくありません。

3分の2以上の69%の組織が2025年までに生成AIをオープン・イノベーションに使用すると答え、その割合は2022年の29%から大きく増加しています。しかし、イノベーションに生成AIを取り入れるのに必要な専門知識が社内にあると答えた経営層は38%に過ぎませんでした。生成AIを用いたイノベーションの具体的なユースケースを特定していると答えた経営層は45%で、また、責任を持ってイノベーションに生成AIを取り入れる体制が整っていると答えた経営層は48%と、共に半数に達していません。

 

イノベーションに生成AIを取り入れるのに必要な専門知識が社内にあると答えた経営層は38%に過ぎません。

 

社外のパートナーと効果的な協力関係を築こうとしたとき、CEOに求められるのは、障害を取り除くことです。生成AIをオープン・イノベーションに取り入れるためには、最先端のツールを導入する必要がありますが、その際に最大の障害となるのはテクノロジーではなく、データや人材に関する問題だと経営層は答えています。具体的には、データのプライバシー、機密性、セキュリティー、さらには生成AIのスキルや専門知識の不足が挙げられます。

こうした中、経営層は、生成AIが組織のイノベーション能力を強化するのに役立つことを期待しています。生成AIをイノベーションに活用することを検討している経営層の92%以上が、生成AIを従業員の代わりではなく、従業員を強化する手段であると考えています。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「人材 + 生成AI」

エコシステム全体に散在するスキルを活用して、自社がより価値の高い仕事を行えるようにします

 

組織内の障害に対処することで、生成AIを活用したエコシステムの潜在能力を引き出し、イノベーションを進めます。またエコシステムを長期的な成功に導くため、データやスキル、組織文化を育成・開発します。

 

  • 組織の内外にあるデータの質を上げて、イノベーションを促進します。明確なデータ・ガバナンス体制を構築し、透明性と信頼性を確保します。組織全体で必要なデータを必要な場で利用できるよう、エンタープライズ・データ・ファブリックを確立します。データのサイロ化を解消し、パートナーと容易にデータを共有できるようにします。

  • 従業員の内なる革新性を引き出し、その能力を外に向かって拡大させます。組織が有するイノベーションや生成AIに関する能力とスキルを定義し、育成し、そして管理します。その際、チェンジ・マネジメントが、組織において生成AIを使ってイノベーションを進める要となります。エコシステムのパートナーと協力して、これらに必要な能力の向上を図ります。

  • テクノロジーを自在に操る組織文化を育てます。KPI(重要業績評価指標)を設定し、インセンティブ制度を整えることで、生成AIによるコラボレーションとイノベーションを促進させます。組織全体でイノベーションを進めるために、意思決定権を適正に割り当ててください。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「エコシステム + 生成AI」

かつて有益だったパートナーシップが、これからもそうであるとは限りません

 

生成AIによってあらゆることが交渉の場に上がるようになりました。そしてそこから、かつてないビジネスプロポジション(提案)をもたらす道が拓かれました。

今日の環境下、経営層は新たな分野でパートナーを探しており、生成AIがそのことを支援するのではないかと期待しています。実際に経営層は、生成AIをイノベーションに使用することで得られる最大のメリットは、イノベーション・エコシステムの拡大であると考えています。

しかし、エコシステムでパートナーシップを成功させるためには、パートナーの数だけではなく、質が鍵となります。CEOが生成AIをエコシステム内でイノベーションに活用するときは、パートナーの選択は慎重に行う必要があります。まず、リーダーは自社の強みを評価し、優先度の高い問題点をまず探るべきです。そこから、補完を要する専門知識や、特殊なデータ機能、より良い市場へのアクセスなど組織が最もサポートを必要とする領域を特定することができるようになるからです。

リーダーは、生成AIの導入を機に、既存のパートナーシップを見直し、共通の基盤や価値観のもとにエコシステムに集約しなくてはなりません。その過程で自社が保有するデータはどのような戦略上の価値があるのかを、またそれが存在する場所(どのアプリケーションか、管理者は誰か)を把握する必要があります。それらのデータの競争上の優位性を定義し、対象となるパートナーからどのように価値を得るかを決定します。そうすることで、リーダーは、イノベーションを推進する上で、いつ、どこでエコシステム・パートナーと情報を共有すればよいかが判断しやすくなるでしょう。

 

エコシステムでパートナーシップを成功させるためには、パートナーの数だけではなく、質が鍵となります。CEOが生成AIをエコシステム内でイノベーションに活用するときは、パートナーの選択は慎重に行わなければなりません。

 

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「エコシステム + 生成AI」

外部との関係性を再評価します

 

今こそ、エコシステム全体の協力から生まれた集合知を活かすときです。パートナーがイノベーションに役立つのかを評価し、そうでない場合はそのパートナーとの関係を見直さなければならないでしょう。
 

  • 新しいエコシステム・パートナーシップを通じて、イノベーション戦略を刷新します。パートナーと連携し、より多くのデータやインサイト(洞察)、発見を生み出し、成果に結び付けます。多様な能力やテクノロジーを素早く取り込み、その活用につながる道を多く持つパートナーを選択し、彼らと重点的に関係を深めるべきです。自社の強みは何なのか、秘匿すべき知見は何かを把握し、その強みをどのようにパートナーに補完してもらうかを明確にします。
     
  • 新たな関係を結ぶパートナーに対するチェックリストを作成します。必要となるAIのガードレール(指針)や原則をそのパートナーが共有しているかどうかを評価します。信頼性や安全性を確保した上でイノベーションやコラボレーションを進められるようにするために、明確なガバナンスや基準を確立します。何が契約違反となるかも明確にします。
     
  • エコシステムのEQ(心の知能指数)を高めます。ハイブリッドクラウドとオープンAIプラットフォームを活用して、データを共有し、コラボレーションと共創(co-creation)を実現します。オープン・スタンダードを採用し、補完性と互換性を確保します。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueがオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施した2度の独自調査のほか、IBM Institute for Business Valueが公表したいくつかのレポートに基づいています。第1回調査は、生成AIのオープン・イノベーションへの適用について、米国、英国、ドイツ、オーストラリア、シンガポールの企業の経営層315人を対象に2023年5月~6月に行いました。第2回は、生成AIが従業員に与える影響について、米国企業の経営層300人を対象に23年5月に実施。参照したIBM IBV発行の調査には『2023 CEO Study: Decision-making in the age of AI(邦訳「AI時代の到来で変わるCEOの意志決定」)』、『Extending digital acceleration』(21年)、『Open the door to open innovation』(21年)が含まれます。


このレポートをブックマークする


発行日 2023年11月20日

その他のおすすめ