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ビジネス遂行の新たな方法

CEOのための生成AI活用ガイド第3弾 ー アプリケーション・モダナイゼーション

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第三弾として「アプリケーションのモダナイゼーション」をお届けします。

 

生成AIは、これまで手の届かなかった領域での、高い価値につながるモダナイゼーションを可能にします。


多くの企業でみられる「今動いているものには手を加えない」という扱いのアプリケーションは、いつまで運用可能で、どれほどのコストがかかるのか、往々にして不透明だったりします。生成AIはその状況を変えられるかもしれません。ただし、それは決して簡単にいくわけではありません。

経営層の64%が、自社で生成AIを活用するにはアプリをモダナイズする必要があると回答しています。それと同時に、生成AIはアプリのモダナイゼーションを変革する力を秘めています。つまりコインの表と裏の関係です。

急速に進化する生成AIのユースケースは、従来のITプラットフォームでは対応できないレベルのスピードや柔軟性、接続性を必要とします。それにもかかわらず、自社でも生成AIで迅速、簡単、安価なモダナイゼーションを実現したいという期待は誰もが抱いています。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「オペレーション+生成AI」

生成AIとアプリケーションのモダナイゼーションとを組み合わせれば、アジリティー向上と収益成長の好循環を促進できます
 

アプリケーションのモダナイゼーション(従来のシステムやアプリケーションを更新し、最新のテクノロジーやアーキテクチャーを取り入れるプロセス)は、ビジネスのアジリティーを高めるための必須条件です。レガシー・システムに最新のアプリを付け足すだけではテクノロジー環境が複雑化するばかりですが、企業はそうではなく生成AIを活用することで、自社全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に向け、アプリのモダナイゼーションを加速することができます。

アジャイルな慣行を取り入れているCEOは、収益成長率で他社を上回っている可能性が49%高いことが分かっています。さらに、経営層の79%は、アプリケーションのモダナイゼーション・プロジェクトに生成AIを活用すると、ビジネス・アジリティーが高まると回答しています。
 



 

生成AIを使用することで、企業はアプリケーションのモダナイゼーション・プロセスの一部を自動化・効率化し、リソースをより効果的に活用できるようになります。生成AIで、コード・スニペットやアプリケーション・コンポーネントを生成したり、アプリが期待どおりに動作しているかどうかのテストを自動化したりできます。

生成AIはこのような進歩のカギを握っていますが、一方で、すでに主要なワークフローをモダナイズしたと回答している経営層は27%にとどまっており、4人に3人は、自社組織はモダナイゼーションを実行できておらず、システムはばらばらであり、断片化したテクノロジーやツールを使用していると回答しています。

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「オペレーション+生成AI」

すでにモダナイズしたアプリケーションに生成AIを適用し、まずは簡単に達成できる成果を確保しましょう
 

誰でも早期の成功実績を求めるものです。すでにモダナイズしたアプリケーションに生成AIを適用すれば、生成AIの可能性を示すことができ、モダナイゼーションの取り組みにとって足かせとなる現状維持志向を克服できます。
 

  • 低リスクで、人目を引く機会に重点を置きましょう。具体的な業務システムやアプリケーションのモダナイゼーションに、生成AIを使用してみてください。たとえば、すでにモダナイズされている製造システムやサービス・デリバリー業務から着手するとよいでしょう。

生成AIが開発者の生産性に与える効果を追跡し、評価しましょう。そのデータを使用すれば、他の事業部門のリーダーに価値を証明し、支持を取り付けることができます。

  • 経験を積んだ人材を、新しいチームに派遣し、部門を越えたガイドや推進者の役割を担ってもらいましょう。生成AIを活用したアプローチを、企業全体のさまざまなモダナイゼーションの機会に適用し、価値を広範に拡大させましょう。

 

リーダーが知るべきこと2ー 「戦略+生成AI」

生成AIは、企業が技術的負債を決定的に解決できる機会を提供します

 

生成AIから最大の成果を引き出すには、より高い目標にまで手を伸ばす必要があります。

アプリケーションのモダナイゼーションという言葉は、複雑なプロセスを指し、難しそうな響きがあります。それを心から喜んで投資を主導したり、引き受けたりするリーダーはそう多くはないかもしれません。しかし、最上位のビジネス・リーダーたちは、そろそろ責任の押し付け合いはやめるべき時であると感じているようです。アプリケーションやデータのモダナイゼーションは自社のビジネス戦略の中心的課題である、と回答した最高責任者クラスの経営層は現在、全体の83%に上ります。また89%が、アプリのモダナイゼーション・プロジェクトに生成AIを活用すれば、既存の製品・サービスの改善や、新たな機能の構築が可能となり、それによって成長を促進できると回答しています。

 

 

アプリケーションのモダナイゼーションと生成AIの導入を並行して進めれば、かつては野心的すぎると思われた機会の実現が視野に入るようになります。なぜでしょうか。例えば、すでに一部の企業では、アプリケーションの構築やリファクタリング、レガシーなERPシステムからSaaS版へ移行するためのワークフロー作成、さらにはクラウド上で動作する新しいデジタル製品の機能要件作成などに、生成AIを活用しています。また生成AIは、企業のスキルギャップ解消を支援し、日々の単調な作業を減らすことで、スタッフやチームの仕事を効率化することができます。こうした課題への対処は、生産性の向上につながります。そして、コード変換、コード生成、トランスフォーメーション・プランニング、ナレッジ管理などを利用して、低コストかつ迅速にスケールさせることができるのです。

ただし企業は、パブリッククラウド環境にある生成AIモデルに、機密情報やプライベート・データを接続することはできません。そうしたデータが他者に利用可能になってしまうからです。生成AIモデルを自社の独自データでファインチューニングし、AIによる提案の精度を高めるには、最新かつプライベートな環境で作業する必要があります。

ビジネス・リーダーたちは、アプリケーションのモダナイゼーションを妨げる従来の障壁を、生成AIが取り除いてくれることに期待しています。経営層の半数以上が、モダナイゼーション・プロジェクトで戦略的な成果を上げる上での障害として、コスト面または技術面の課題を挙げています。しかし現在、多くの経営層は、そのような技術面(57%)およびコスト面(46%)の障壁を生成AIが解消してくれることに期待しています。

ではどこから始めるべきでしょうか。経営層の予想によると、生成AIがアプリケーションのモダナイゼーション・プロジェクトで最も大きな効果を上げられるのは、マーケティング、カスタマー・サービス、情報セキュリティーといった領域においてです。

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「戦略+生成AI」

以前は「手の届かなかった」機会、すなわち基幹システムのアプリケーションやプロセスなどに着手しましょう

 

生成AIは、CEOにまったく新しい方法でビジネスを遂行する力を与えます。しかしそれも、CEOが簡単に達成できる成果で満足せず、高い価値を生む機会に挑戦した場合に限られます。目を向けるべきは、これまでモダナイゼーションを試みるには難しすぎたり、自信が持てなかったりした基幹システムのアプリケーションやプロセスです。製造業における製品ライフサイクル管理システムや航空業界におけるフライト・スケジューリング・システムといった、基幹業務システムのモダナイゼーションを早急に進めるべき時が来ているのです。そのようなシステムにこそ、生成AIは最大かつ最も戦略的な成果をもたらすことが期待されています。
 

これまで見送られていた機会を発見しましょう。高いビジネス価値が期待されていたにもかかわらずコストや難しさのために断念されたモダナイゼーション計画がなかったか、CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)に確認してください。それらの計画に目を向け、新しいモダナイゼーション目標のリストを作りましょう。

  • 生成AIがもたらす新しい機能と連携できるよう、運用モデルを更新しましょう。アーキテクチャーに関連した最新のプラクティスである、コンポーザビリティーなどを取り入れ、スケーラビリティーを実現しましょう。

テクノロジー・サービス・パートナーのエコシステムを、生成AIの戦略的導入に関わる全面的な参加者として巻き込みましょう。顧客や潜在的パートナーとのコミュニケーション・チャネルを開いてください。マーケット・インテリジェンスを強化し、生成AI分野の競争状況を率直に評価することにより、望ましくないアクシデントを回避しましょう。


リーダーが知るべきこと3ー 「トランスフォーメーション+生成AI」

生成AIによって、ITとビジネスの間の距離がようやく埋まりつつあります

 

もはやITとビジネスの間に境界線はありません。ついに、「IT=ビジネス」となったのです。生成AIの出現により、テクノロジーがイノベーションを推進し、ビジネスがテクノロジーを牽引できるようになりました。つまり、生成AIから最大の価値を引き出すためには、CEOは従来の垣根を取り払い、諸部門をより包括的に統合する必要があるということです。

経営層の64%は、生成AIがIT部門とビジネス部門の役割のギャップを埋めてくれると考えています。しかし、それはどのような形で実現されるのでしょうか。それは、ビジネス目標についての理解を共有すること、そしてコラボレーションを強化することから始まります。これにより、従業員はイノベーションと改善の機会を特定しやすくなり、共通の目標に向かってより効果的に動けるようになります。

IT部門との緊密な連携により、リーダーは、最もビジネス価値が大きいアプリケーションに最大のサポートが提供されていること、そしてパフォーマンスの低いアプリケーションがITリソースを独占していないことを確認できるようになります。また生成AIを活用することにより、CEOはKPIと各アプリケーションのパフォーマンスおよびサポート要件を相互比較し、IT支出に関する意思決定を迅速かつスマートに行えるようになります。

そしてより良い意思決定は、戦略的整合性の向上につながります。こうしたことには、リーダーの姿勢が影響を与えています。生成AIへの投資がきわめて重要だと考えるリーダーの60%は、自社のITアーキテクチャーをビジネス活動やビジネス・プロセスと整合させる取り組みで、すでに大きな前進を遂げています。この割合は、他のグループのリーダーと比べて40%高い結果となっています。

 

 

アプリケーションのモダナイゼーションでIT部門とビジネス部門が果たす役割について、企業の意見は分かれており、半数はIT部門が主導権を持つべきと考え、半数はビジネス部門が主導権を持つべきと考えていますが、生成AIはその両者のかけ橋になることができます。

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「トランスフォーメーション+生成AI 」

ビジネス部門とIT部門の目標を別個に評価するのを止め、ビジネス価値に最も強くつながっているITプロジェクトをはっきりと優先させましょう

 

IT部門とビジネス部門の間の協力関係を強化し、長期的なものにしましょう。便宜的な提携関係を作るのではなく、強固で揺るぎないパートナーシップを形成してください。生成AIのイノベーション・チームを立ち上げるにとどまらず、役割を問わず、すべてのリーダーにテクノロジーのモダナイゼーションとビジネス成果の両方に対する責任を持たせましょう。
 

  • 生成AIアプリケーションを活用したモダナイゼーションを主導するリーダーを選任し、それを発表しましょう。その職責は、会社の最高責任者クラスより2階層下の人材に任せることが妥当でしょう。
     
  • 生成AIチームと共有すべきスローガンは、「切迫感」と「価値実現までのスピード」です。モダナイゼーション作業について、1周ごとにより良いビジネス成果に向けて前進できるような高速なサイクルを要求し、それが実現できたら報奨と称賛を提供してください。
     
  • 部署間で対立または競合するインセンティブや、部署ごとの利益だけを考えるインセンティブを発生させないようにしましょう。成果に対する評価や報奨は、すべてのビジネス目標と従業員をカバーした、単一の一貫したプログラムの中で提供してください。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueがアプリケーションのモダナイゼーション、生成AI、より広範なビジネス課題に関して行った独自調査のデータに基づいています。調査は、オックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施しました。第1回調査は米国に拠点を置く企業の100人の経営層を対象に2023年7月に行いました。第2回は米国の経営層400人を対象に2022年8月に行いました。第3回は米国の経営層2,000人を対象に23年4~7月に行い、第4回は世界のCEO 3,000人に対して23年1~4月に実施しました。

 


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発行日 2023年8月15日

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