グローバル経営層スタディ CEOの視点: 本質を見極める
ポストコロナ時代における価値の再定義

グローバル経営層スタディ CEOの視点: 本質を見極める

ポストコロナ時代における価値の再定義



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まったく新たな方法を模索する時が来た

コロナ禍の影響が終息に向かうか否かにかかわらず、2020年が劇的な転換点となったことは間違いないだろう。このように全世界が一斉に行動様式を変える事態は過去に例を見ず、各国でロックダウンや自主隔離、強制的なソーシャル・ディスタンスの導入が相次いだ。企業や政府機関においては、これまでの前提や計画が根底から覆されることで、甚大な影響が出ている。洋の東西を問わず、業界内および業界の枠を超えて従来の慣習が崩れ去った。先行きの不透明感は強まるばかりだが、そこには新たなチャンスと新たなリスクが共存する。

この未曾有の事態をより深く理解すべく、IBM Institute for Business Value(IBV)では、最高経営責任者(CEO)を対象とするかつてない規模での調査に踏み切った。20年に及ぶ経営層スタディの経験を基に、世界中の民間企業のCEOおよび政府機関のトップ約3,000名に対してインタビューを実施。そこには、IBV独自の深い専門知識に加えて、グローバル経済予測・マクロ計量分析のリーディング・カンパニーであるOxford Economics社が持つ高度な専門知識も付加した。加えて、20数名のCEOに対しては、対面でのインタビューを行い、トップ・リーダーが現在取り組んでいるテーマや課題、そして彼らの考えについて伺った。

グローバル経営層スタディ CEOの視点: 本質を見極める
ポストコロナ時代における価値の再定義


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まったく新たな方法を模索する時が来た

コロナ禍の影響が終息に向かうか否かにかかわらず、2020年が劇的な転換点となったことは間違いないだろう。このように全世界が一斉に行動様式を変える事態は過去に例を見ず、各国でロックダウンや自主隔離、強制的なソーシャル・ディスタンスの導入が相次いだ。企業や政府機関においては、これまでの前提や計画が根底から覆されることで、甚大な影響が出ている。洋の東西を問わず、業界内および業界の枠を超えて従来の慣習が崩れ去った。先行きの不透明感は強まるばかりだが、そこには新たなチャンスと新たなリスクが共存する。

この未曾有の事態をより深く理解すべく、IBM Institute for Business Value(IBV)では、最高経営責任者(CEO)を対象とするかつてない規模での調査に踏み切った。20年に及ぶ経営層スタディの経験を基に、世界中の民間企業のCEOおよび政府機関のトップ約3,000名に対してインタビューを実施。そこには、IBV独自の深い専門知識に加えて、グローバル経済予測・マクロ計量分析のリーディング・カンパニーであるOxford Economics社が持つ高度な専門知識も付加した。加えて、20数名のCEOに対しては、対面でのインタビューを行い、トップ・リーダーが現在取り組んでいるテーマや課題、そして彼らの考えについて伺った。

グローバル経営層スタディ CEOの視点: 本質を見極める
ポストコロナ時代における価値の再定義

“集中力を妨げる要素をそぎ落とし、最大の成功をもたらす要素にのみ、持てるエネルギー、リソースのすべてを注ぎ込む必要がある”

— Jeff McElfresh, CEO, AT&T Communications

驚くべき調査結果

調査を行うと、そこには従来とは優先課題も重点領域も異なる、先例のない次世代の姿がまざまざと映し出されていた。リモート・ワークへの新たな期待や加速するテクノロジーの導入など、昨日までの慣習と今後求められるものとの間に隔世の感を禁じ得ない。

この新たな時代の基軸となる何よりも重要な問いは、「顧客、従業員、コミュニティー、および投資家にとって不可欠な存在となるためには何が必要なのか」である。今回話を伺った大多数のCEOは、自社の最大の強み(組織を差別化し、最大の価値をもたらす要素)に焦点を絞ることが最優先で進めるべき事項であると異口同音に強調した。

混乱の中から見えたものは、回り道や甘えを断ち切り、「慣習のための慣習」を根絶し、独自の強みを生かすということの重要性だ。これは、製品やサービスといった対外的要素だけでなく、対内的要素にも当てはまる。組織にとって誰が不可欠な人材であり、ビジネスの運営にとっては何が欠かせないのだろうか。

グローバル経営層から得られた鍵となる洞察を探る

01

最重要課題

調査対象の3000名のCEO全体から得られた主要な調査結果を確認する

読む

02

優位性の追求

高業績企業と低業績企業の違いを探る

読む

03

教訓を得る

CEOはどのように顧客、製品、運営の水準を引き上げているのかを学ぶ

読む
01最重要課題

今後2、3年で最も良い業績を生み出すための最重要課題とは?

2020年は、ビジネスにおいて長年培った計画やルールを、急場しのぎで置き換えなければならない事態に見舞われた。そして、これまでCEOが常に自らに問いかけてきた「何をしなければならないか」が「何をすべきか」へと変化した。

CEOは過去1年間の不透明な状況を受け、リーダーにとっての最優先課題として「組織のアジリティー」(組織が勢いを失うことなく、迅速に問題解決や方針転換を行う能力)をかつてないほど重視している。

多くの場合、アジャイルな施策による影響を明確に特定することは難しく、場合によっては「アジャイル・カオス」を招く恐れすらある。そのため、アジャイルな働き方を推進するには、その目的をより明確にしなければならない。成果や指標を踏まえて、イノベーションにより大きな優位性を生み出すことが可能な分野であるかを見定める必要がある。そうすることで、アジャイルな施策が実質的かつ有益な変革をもたらし、ビジネスに確固たる影響を与えるだろう。

CEOは、コロナ禍においてイノベーションを生み出すためには柔軟性を高める必要があり、リモート・ワークの強化はその実現に向けた喫緊の課題であることを認識している。2020年には多くの戦略的優先課題が積み重なったが、その中でもCEOが最大の懸念を示したのは「リモート・ワークの強化」だった。

56%
のCEOがアジャイルで柔軟なオペレーションを積極的に追求する必要があると強調した
“アジャイルな手法や実験を採用できれば、適応力の高い身軽な組織を実現できる”— Piyush Gupta, CEO, DBS Bank
  • CEOは過去1年間の不透明な状況を受け、リーダーにとっての最優先課題として「組織のアジリティー」(組織が勢いを失うことなく、迅速に問題解決や方針転換を行う能力)をかつてないほど重視している。

    多くの場合、アジャイルな施策による影響を明確に特定することは難しく、場合によっては「アジャイル・カオス」を招く恐れすらある。そのため、アジャイルな働き方を推進するには、その目的をより明確にしなければならない。成果や指標を踏まえて、イノベーションにより大きな優位性を生み出すことが可能な分野であるかを見定める必要がある。そうすることで、アジャイルな施策が実質的かつ有益な変革をもたらし、ビジネスに確固たる影響を与えるだろう。

    CEOは、コロナ禍においてイノベーションを生み出すためには柔軟性を高める必要があり、リモート・ワークの強化はその実現に向けた喫緊の課題であることを認識している。2020年には多くの戦略的優先課題が積み重なったが、その中でもCEOが最大の懸念を示したのは「リモート・ワークの強化」だった。

    56%
    のCEOがアジャイルで柔軟なオペレーションを積極的に追求する必要があると強調した
    “アジャイルな手法や実験を採用できれば、適応力の高い身軽な組織を実現できる”— Piyush Gupta, CEO, DBS Bank
  • CEOはやはりテクノロジーに対して非常に関心が高かった。調査を行ったCEO 3,000名が、今後2~3年の間に自社に最も影響を与える外部要因のトップに「テクノロジー」を挙げた。その評価が妥当であることは、IBVが最近発表した「Digital acceleration」からも明らかとなっており、デジタル成熟度と業績には大きな相関があることがわかっている。

    テクノロジーがもたらすものはアジリティーだけではない。ハイブリッド型の勤務形態のほか、オペレーション効率改善や顧客エンゲージメント向上においても中心的役割を果たす。では、最も重要なテクノロジーとは何なのか。本調査の結果から、事業の成長に最も寄与すると考えられるテクノロジーのトップ3は、 「IoT」、「クラウド・コンピューティング」、「AI」であった。

    CEOは、今後2、3年の事業成長に最も寄与すると考えられる3つのテクノロジーを選出した。
    Internet of Things
    79%
    Cloud computing
    74%
    Artificial intelligence
    52%
    “今や何をするにしてもテクノロジーの存在が当たり前になりつつある”— Alex Gorsky, CEO, Johnson & Johnson
  • 過去17年に及ぶIBVのCEO調査で、「自社に最も影響を与える外部要因」の中で「法規制」が4 位より上位に入ることはなかった。10年近くにわたり1位と2位を争ってきたのは「テクノロジー」と「市場の変化」(競争、市場力学、変化する顧客の期待事項などを含む)である。しかし今回の調査では、CEOの半数が優先領域として「法規制」を挙げ、2位に躍り出た。

    これは紛れもなく、プライバシー、データ、貿易、そして (COVID-19により課題となっている)健康に関して、政府の発言力が増していることを示している。ロックダウン や自主隔離は、ビジネスに対して政府に権力を与え、少なくともCEOの2人に1人の懸念事項となっている。

    CEOは今後2,3年の間でビジネスに最も影響を与えると見込まれる外部要因を選出した
    57%
    テクノロジー
    50%
    法規制
    50%
    市場の変化
    44%
    マクロ経済要因
    44%
    個人のスキル

    薄れゆく最高戦略責任者(CSO)の存在感

    2013年以降、CEOを対象とするIBVの調査には、経営層全体に関する質問が含まれている。今後2,3年の間はどの役職が最も重要な役割を果たすのだろうか?

02優位性の追求

業績における逆説:運、思い込み、過信

ビジネスがうまくいっているからといって、物事を適切に遂行できていると考えたり、ビジネスが苦戦しているからといって、何かを失敗したと考えるべきではない。これこそがパンデミック下の経済における現実なのだ。

詳細はこちら

高業績企業はどのような本質的優位性を持つのか?

2020 年には、従来の業績評価方法や、参考にすべき企業の特定基準が激変した。世界を巻き込むパンデミックとその後相次いだロックダウンによって、破壊的ダメージを受けた業界や地域がある一方で、躍進を遂げたケースもあるからだ。このような状況的要因による影響の大きさは、「単に幸運な場所にいただけで恩恵を受け、そうでない場所にいただけでひどい目に遭う場合がある」ということを意味する。

この現実に沿って、IBVは3,000名のCEOから提供されたデータを2つの要素に基づいて選別した。具体的には、「2020年以前の3年間に同業他社よりも高い収益成長率を達成」し、かつ「2020年だけを見ても同業他社と同等かそれ以上の業績を上げた」企業を特定した。結果、調査回答者のおよそ5人に1人がこの2要素から成る「高業績企業」の基準を満たしたのに対し、同規模のグループ (回答者の5分の1)はどちらの基準も満たさず、例年を下回る収益成長率を報告していた。そして、高業績企業の回答を低業績企業のものと比較したところ、劇的な差があることがわかった。

高業績企業は、同業他社よりも収益成長率が高い状態で2020年を迎え、その後もリードを拡大している(年間成長率で5ポイントから7ポイントの差)。年間収益で100億ドル規模の組織の場合、収益成長率におけるこの差は、年間7億ドルの増益に相当する。

高業績企業には、共通する5つの主要な戦略があった。

本調査全体にわたって、低業績企業は回答が分散しているのに対し、高業績企業は一連の優先事項に回答の集約が見られた。高業績企業は、情報収集に消極的になったり、事態が収まるのを待ちながらリスク分散を図ったりしていない。事業領域にかかわらず、決定的な戦略的リーダーシップを発揮することで、他社と差別化しているのである。事実、業績にとって重要な要因として「リーダーシップ」を挙げた割合は、高業績企業では全体の85%に上るのに対し、低業績企業では69%にとどまった。

他にも最たる例として、高業績企業は低業績企業より53%高い割合で、従業員とのエンゲージメント向上には「目的意識と使命感」が重要であると回答した。全般的に組織への信頼が低下し続けている昨今の風潮の中で、これは新たな競争優位性となっている。

[回答率の差分表記]
以降、文中と図表内の回答率差分は、以下の方法で算出した高業績企業回答率と低業績企業回答率の増分比率を記載。
高業績の回答率が低業績企業より大きい場合(高業績企業回答率÷低業績企業回答率- 1) × 100
低業績の回答率が高業績企業より大きい場合(低業績企業回答率÷高業績企業回答率 - 1) × 100

高業績企業は、「目的と使命感」が従業員エンゲージメントの向上に欠かせないと考えている
  • 本調査全体にわたって、低業績企業は回答が分散しているのに対し、高業績企業は一連の優先事項に回答の集約が見られた。高業績企業は、情報収集に消極的になったり、事態が収まるのを待ちながらリスク分散を図ったりしていない。事業領域にかかわらず、決定的な戦略的リーダーシップを発揮することで、他社と差別化しているのである。事実、業績にとって重要な要因として「リーダーシップ」を挙げた割合は、高業績企業では全体の85%に上るのに対し、低業績企業では69%にとどまった。

    他にも最たる例として、高業績企業は低業績企業より53%高い割合で、従業員とのエンゲージメント向上には「目的意識と使命感」が重要であると回答した。全般的に組織への信頼が低下し続けている昨今の風潮の中で、これは新たな競争優位性となっている。

    [回答率の差分表記]
    以降、文中と図表内の回答率差分は、以下の方法で算出した高業績企業回答率と低業績企業回答率の増分比率を記載。
    高業績の回答率が低業績企業より大きい場合(高業績企業回答率÷低業績企業回答率- 1) × 100
    低業績の回答率が高業績企業より大きい場合(低業績企業回答率÷高業績企業回答率 - 1) × 100

    高業績企業は、「目的と使命感」が従業員エンゲージメントの向上に欠かせないと考えている
  • 低業績企業のCEOは、テクノロジーのインパクトを過小評価し、代わりに従来の市場要因に重きを置く傾向がある。一方、高業績企業のCEOが最も重点を置いているのは、「新たなテクノロジーの将来的なリスクとチャンス」である。

    新たなテクノロジーは、当然何らかの基盤上に構築される必要があるため、高業績企業のCEOが最も大きな課題として「テクノロジー・インフラストラクチャー」を挙げた割合は、低業績企業の2倍近くに上っている。この数値(高業績企業の回答者の62%)は、 質問した全17項目の中で飛び抜けて高いものとなっている。これは、テクノロジーがいかに目まぐるしく変化し続けているかを高業績企業が正しく評価しているという事実に加え、低業績企業がいかにその要因を見落としているかも浮き彫りにしている。

    特定のテクノロジーに関しては、低業績企業はどうやら周回遅れにあるようだ。現に、今後の事業成長の鍵として、チャットボット、音声技術、自然言語処理を挙げた低業績企業の割合は、高業績企業の3倍以上となっている。もちろん、これらのツールには優れた機能が期待できる。しかし同時に、これらのツールは、 他の高度なテクノロジーと組み合わせて使用しない限り、最終的に差別化に繋がるパフォーマンスを生み出さない可能性がある。

    一方で、今後2~3年の間に、業績向上にAIが貢献すると期待している割合は、高業績企業のほうが低業績企業よりも2倍以上多かっ た。この認識における格差は、AIの導入で後れを取っている企業がさらに取り残される可能性があることを示唆している。

    低業績企業に比べ、業績向上に AI が貢献すると期待している 高業績企業は2倍以上多い
  • 職場環境については、高業績企業と低業績企業とで認識が著しく異なる。コロナ禍によって加速された、リモートの“場所の制限のない”職場環境は、高業績企業が挙げた今後の重点領域の中に含まれ、 同 CEO の50%が主要な課題と捉えている。一方、“場所の制限のない”職場環境を挙げた低業績企業の割合はその半分で、関税などと同数の結果となった。

    意外にも業界間の差異に関係なく、低業績企業の中では地方自治体のみが50%以上の割合でハイブリッド型勤務形態を課題として挙げた。低業績企業においては、比較的高い割合で “場所の制限のない” 職場環境に重点を置いている業界(リテール/コンシューマー・ バンキング、IT サービス、小売)でさえ、今なおこの問題に関しては高業績企業の競合他社に後れを取り続けている。言い換えれば、 高業績企業が“場所の制限のない”職場環境に関連する課題やチャンスに対して積極的に準備を進めているのに対し、低業績企業はさらに取り残される可能性があるということだ。

    高業績企業は従業員の幸福と利益(福利)も重視しており、「短期的に収益が犠牲になったとしても従業員の健康と福利を守る」と回答した割合が、低業績企業より97%も多かった「何よりも重要な機能は、人間の能力だ」と言うのは、都市のデジタル・トランスフォーメーションを推進する政府機関であるSmart DubaiのCEO、Younus Alだ。「優秀な人材を確保し続けていれば、テ クノロジーがもたらす優位性を享受できる」

    高業績企業はたとえ利益を犠牲にしても従業員の福利を守ると回答した
  • 過去数年にわたり、今後数年間でパートナーシップを結ぶことを見込んでいるCEOの割合が急激に減少した。2015年の79%という高い割合から、2020年の調査ではわずか36%にまで落ち込んでいる。

    ここで特筆すべきは、「自社が最も得意とするものに注力する」という信念を反映して、高業績企業が(低業績企業との歴然たる違いを示しながら)パートナーシップへの重点強化を表明している点だ。2020年に最も重要性が高まった要素は何かという質問に「パートナーシップ」を挙げた割合は、高業績企業が63%だったのに対し、 低業績企業はわずか32%にとどまった。

    今後については、低業績企業に比べて47%多くの高業績企業が 「パートナーとの柔軟なネットワークの構築」を積極的に進めるとした。また、「顧客関係」と「顧客体験」に重点を置く高業績企業の割合は、低業績企業に比べ多く(68% および 59%)、より外部に目を向けていることがわかる。

    これはつまり、組織が提携を結ぶ件数自体は減ってはいるものの、 高業績企業の認識において実際の提携に対する重要性(および価値) はかつてないほどに高まっていることを示している。

    高業績企業は必要な能力を求めてパートナーシップを活用する
    63%
    高業績企業
    32%
    低業績企業
    “他社の専門知識に敬意を払えば、より早く 目標を達成できる。そうなれば、より大きな成果が得られる。”— Duncan Painter, CEO, Ascential
  • エコシステム、リモート・アクティビティー、および全般的なテクノロジーへの重点強化と並行して、高業績企業はもう1つの重要領域であるサイバー・セキュリティーに焦点を絞ることで、低業績企業からの差別化を図っている。低業績企業より26%多くの高業績企業が、今後2~3年における最大の課題の1つとして「サイバー・ リスク」を挙げている。また、高業績企業が積極的に追及している要因の第2位は、「セキュアなデータ/システム」の実現だ。さらに、低業績企業よりも 31% 多くの高業績企業が、テクノロジーが 最大のインパクトを及ぼすと思われる領域は「セキュリティー/リ スク」だと答えている。

    高業績企業は、パートナーシップ、企業文化、顧客エンゲージメン トなどが本質的にテクノロジー頼みであることを考えると、デジタル・セキュリティーと信頼を戦略に組み込む必要性があることを認識しているようだ。テクノロジーが持つ重要性およびインパクトは非常に大きく、中心的役割を果たすことから、サイバー・セキュリ ティーが最優先課題に浮上したのも当然のことと言える。これは、 IBV の「Digital acceleration」調査の結果とも一致しており、高業績企業は AI を利用して脅威インテリジェンスの収集と評価を行 う傾向が、低業績企業と比べて72%高いことがわかっている。一 方、対策をとっていない低業績企業は、自らの技術的な未熟さを露呈している。 そして、たとえテクノロジーの成熟度が低くても、本質的にはテクノロジーに依存していることにより、自ら攻撃を受けやすい状況を生み出している可能性さえある。

    高業績企業は、テクノロジーを
    セキュリティー向上に有力なツールと捉えている

    量子コンピューティングの可能性

    CEOは危険を覚悟で量子コンピューティングの存在を無視しているのかもしれない

03教訓を得る

競争上の優位性をもたらす重要な教訓とは何か

さらに詳細な洞察を得るため、CEOが自社独自の優位性構築に注力していることを考慮しつつ、より一層掘り下げた分析を行った。IBVはデータに基づくセグメンテーション分析を適用し、回答者3,000名が「顧客重視」、「製品重視」、「オペレーション重視」の3つのグループに分類できることを発見した。各グループを深掘りすると、他とは異なる特殊かつ顕著な傾向が浮き彫りとなった。その中には、グループ間での差別化が見られる場合や、特定のグループ内における高業績企業と低業績企業との差別化が見られる場合があった

48%

のCEOが消費者、顧客、市民に関するビジネス課題の優先度が最も高いと述べる

30%

のCEOが製品、サービスに関するビジネス課題の優先度が最も高いと述べる

20%

のCEOが運営に関するビジネス課題の優先度が最も高いと述べる

この領域に関してはすべての企業や機関が積極的に取り組んでいるが、同カテゴリーのCEOは「顧客関係」への関心が非常に高く、2020年には、エンドユーザーとの仮想エンゲージメントに、その他のカテゴリーの50%以上の割合で重点を置いていた。例えば、そのような企業は開発やテストに加え、プライバシー・ポリシーやセキュリティー・ポリシーにも顧客を関与させる傾向が高い。

顧客に関する教訓は、このグループの高業績企業と低業績企業を比較した場合において顕著である。例えば、この領域においては必然的に重要となる「顧客のフィードバックに基づいた行動」について考えてみる。これは、差別化された顧客体験を生み出す最も重要な方法として挙げられる。ただし、そう答えるのは「低業績企業」の回答者だけだ。

無論、顧客からのフィードバックに価値を見いだしている点は、高業績企業も変わりない。ただし、顧客体験に関して言えば、優先事項の1位、2位は、「顧客サービスにおける " 礼節 "」と「動的フィードバック」(リアルタイムでキュレートされるスマートなフィードバックで、AIなどのテクノロジーが利用される)であった。ここでのメッセージは「顧客が『欲しいと言う』ものを提供しているだけでは十分でない」ということだ。目標とすべきは、どのやりとりにおいても顧客の期待を上回るもてなしによって顧客を満足させることである。企業に対する顧客の印象の良し悪しは、その企業との直近の体験がすべてだということを肝に銘じなければならない。DBS BankのPiyush Guptaは、「水準は引き上げられた」と述べる。

今後2~3年の間にテクノロジーが最大のインパクトをもたらす領域はどこかという質問に対し、顧客重視の低業績企業が挙げたのは、消費者に関する「洞察」、つまり消費者の行動や嗜好に関するデータの収集だ。翻って高業績企業の場合、圧倒的多数が消費者の「体験」と答えた。後れを取っている企業は、データの中に競争に勝つためのヒントを求める。データを収集し、それに基づいて消費者が求めるものを提供しようとするからだ。ただ、そこからさらに大きく一歩踏み出しているのが高業績企業だ。収集したデータはエンゲージメントを強化するのに使い、プロアクティブにデータを活用している。単にデータを眺めるのではなく、顧客とのリレーションシップを構築・強化するためのツールとして有効活用しているのである。

このセグメントの高業績企業は以下にも注力している:
  • プラットフォームの構築とパートナーシップの締結
  • 倫理と誠実さ
  • データドリブンな意思決定
  • 顧客志向の施策へのAI導入
  • サイバーセキュリティーの強化
顧客重視の高業績企業はサイバーセキュリティー強化の必要性を認識している
  • この領域に関してはすべての企業や機関が積極的に取り組んでいるが、同カテゴリーのCEOは「顧客関係」への関心が非常に高く、2020年には、エンドユーザーとの仮想エンゲージメントに、その他のカテゴリーの50%以上の割合で重点を置いていた。例えば、そのような企業は開発やテストに加え、プライバシー・ポリシーやセキュリティー・ポリシーにも顧客を関与させる傾向が高い。

    顧客に関する教訓は、このグループの高業績企業と低業績企業を比較した場合において顕著である。例えば、この領域においては必然的に重要となる「顧客のフィードバックに基づいた行動」について考えてみる。これは、差別化された顧客体験を生み出す最も重要な方法として挙げられる。ただし、そう答えるのは「低業績企業」の回答者だけだ。

    無論、顧客からのフィードバックに価値を見いだしている点は、高業績企業も変わりない。ただし、顧客体験に関して言えば、優先事項の1位、2位は、「顧客サービスにおける " 礼節 "」と「動的フィードバック」(リアルタイムでキュレートされるスマートなフィードバックで、AIなどのテクノロジーが利用される)であった。ここでのメッセージは「顧客が『欲しいと言う』ものを提供しているだけでは十分でない」ということだ。目標とすべきは、どのやりとりにおいても顧客の期待を上回るもてなしによって顧客を満足させることである。企業に対する顧客の印象の良し悪しは、その企業との直近の体験がすべてだということを肝に銘じなければならない。DBS BankのPiyush Guptaは、「水準は引き上げられた」と述べる。

    今後2~3年の間にテクノロジーが最大のインパクトをもたらす領域はどこかという質問に対し、顧客重視の低業績企業が挙げたのは、消費者に関する「洞察」、つまり消費者の行動や嗜好に関するデータの収集だ。翻って高業績企業の場合、圧倒的多数が消費者の「体験」と答えた。後れを取っている企業は、データの中に競争に勝つためのヒントを求める。データを収集し、それに基づいて消費者が求めるものを提供しようとするからだ。ただ、そこからさらに大きく一歩踏み出しているのが高業績企業だ。収集したデータはエンゲージメントを強化するのに使い、プロアクティブにデータを活用している。単にデータを眺めるのではなく、顧客とのリレーションシップを構築・強化するためのツールとして有効活用しているのである。

    このセグメントの高業績企業は以下にも注力している:
    • プラットフォームの構築とパートナーシップの締結
    • 倫理と誠実さ
    • データドリブンな意思決定
    • 顧客志向の施策へのAI導入
    • サイバーセキュリティーの強化
    顧客重視の高業績企業はサイバーセキュリティー強化の必要性を認識している
  • このセグメントのCEOは、製品とサービスのイノベーションに高い関心を寄せている。 「流通やサプライヤーは外部委託できるが、製品を生み出す創造力を買うことはできない。」と、アジアの消費者向けウェアラブルメーカーのCEOは述べる。

    興味深いのは、このグループが2020年のコロナ禍による影響が最も少なかったと答えた点だ。事実、製品重視の高業績企業のうち3分の2が、2020年の1年間において同業他社をしのぐだけでなく、絶対的に継続的成長が見込まれると答えている。また、幅広いリスクへの準備体制においても驚くべき自信を示している。このグループのCEOが他のCEOよりも高い割合で不安を感じているのが「法規制」だ。製品重視の高業績企業は、今後3年間の懸念事項として、低業績企業より23%高い割合で「法規制」を挙げている。

    製品重視グループの高業績企業と低業績企業はどちらも、今後の最優先事項として「製品とサービスのイノベーション」を挙げている が、低業績企業はさらにいくつかの領域にも取り組んでいることがわかった。高業績企業のおよそ2倍の低業績企業が、現在の最重要差別化要素の1つに「ブランドとソーシャル・メディア」を挙げている。また低業績企業は、「マーケティングと販売効率の向上」を今後の最優先事項の2番目に位置付けた。これは、製品品質そのものではなく、パッケージングとプロモーションに頼ろうとしていることの現れとも考えられる。

    一方で高業績企業の場合、販売とマーケティングは優先度としては8番目に位置付けられ、低業績企業と比べて約40%少ない割合で指摘された。言い換えれば、低業績企業はメッセージ性に重点を置いており、これは、もしかすると提供しているものに対して抱く懸念を埋め合わせるためかもしれない。それに対して高業績企業は、 自社の製品やサービスの本質的な価値が普及することを期待して いる可能性が高い。製品重視の高業績企業は、人間中心のデザイン設計と優 秀な製品およびサービスが永続的な成功への王道であると認識しているのであろう。

    このセグメントの高業績企業は以下にも注力している:
    • 顧客との関係性構築、顧客体験の創造
    • ジャストインタイムの在庫ではなく、余剰生産能力の確保
    • ブロックチェーンと分散型台帳
    • デザインと製造のための3Dプリント
    昨今の不安定な状況に対処するため、製品重視の高業績企業は、他のグループと比べてより従業員関連の施策を打たざるを得なかった
  • オペレーターが重視するのは、効率、流通、価格設定構造、透明性である。低業績企業が、例えば「予算」などの短期的な課題を優先している一方で、高業績企業は、長期的で将来を見据えた視座を持っていた。彼らは、新たなテクノロジーなどの要素に重点を置きつつ、将来の成功に向けて自社の立ち位置を決めている。これこそが、単に「生き残る」企業と「成功する」企業の違いである。

    期待される業績の促進要因として、クラウド・コンピューティングやAIと並んで「プロセス・オートメーション」が挙げられているのも当然である。テクノロジーはビジネスのアジリティーを後押しするだろうと、オペレーション重視のCEOは口を揃える。

    「最後までエンジニアリングを行うことから、素早く実験と失敗を することへマインドセットを転換することは、これまでの動き方 とは文化的に真逆である」とSuncorのMark Littleは話し、「非常に斬新なアプローチだ」と言う。

    ソリューションの大半はテクノロジーと適切な導入アプローチを中心に展開されるとLittle氏は説明し、以下のように続ける。「我々は漠然とした世界で投資を加速させようとしている。どうすれば価値を生み出せるだろうか」

    オペレーション重視の高業績企業において2番目に重要な差別化要素は、「パートナーシップ」だ。重要な手段としてパートナーとエコ システムを挙げる高業績企業の割合は、低業績企業の「2倍」に上る。実際に、顧客との信頼を構築して期待に応える手段に関する問いで、高業績企業は8つの選択肢の最上位に「パートナーシップ」 を位置付けているのに対し、低業績企業は最下位の8位となっている。

    パンデミックの混乱における最も暗い時期でさえ、オペレーション重視の高業績企業はパートナーを手放そうとせず、低業績企業よりも44%多くパートナーシップの再交渉を行うことで厳しい経済状況への対応を図った。「パートナーと連携すれば、より迅速に成功を収めることができる」と、Daimler mobilityのFranz Reinerは述べる。「しかも、すべての能力を自社で備える必要がなくなる」

    このセグメントの高業績企業は以下にも注力している :
    • サステナビリティ
    • 従業員エンゲージメント
    • 顧客エンゲージメント
    オペレーション重視の高業績企業は、顧客の期待に応えるため、今後2,3年で新たなエコシステムとパートナーシップを構築するだろう。
“勝負に出る準備を整えなければならない”
— Alex Gorsky, CEO, Johnson & Johnson
あなたの組織の本質はなにか?
“あなたの会社は何を掲げ、何を成し遂げたいのか?”
—Franz Reiner, CEO, Daimler Mobility

いつの時代も、経営層にとって現状に踏みとどまるという選択肢はない。昨年発生した事象はその事実をひときわ顕在化させた。あらゆるタイプのCEOが、好むと好まざるとにかかわらずその現実を認識している。今回のパンデミックは緊急性に拍車をかけたが、どの企業がそのスピードで稼働し続けることができるだろうか。 Daimler MobilityのFranz Reinerは語る。「この勢いを継続させるのはかなりの難題だ。最適なプロジェクトに確実に重点を置き続けるためには、それらをより迅速に実行するための明確なマインドセットが必要なのだ。とにかく、古い慣習に後戻りしないように注意する必要がある」

“あなたの会社は何を掲げ、何を成し遂げたいのか?”
—Franz Reiner, CEO, Daimler Mobility

危機的状況下において、「生き残る」という言葉は自明なものではなくなる。企業は到底同じ場所にとどまって持ちこたえることなどできず、将来を見据えて自ら改革に乗り出す必要がある。よく挙げられる「レジリエンス」という言葉でさえ、風に吹かれてなびいている様子を表している可能性がある。それでは前進せずに元の状態に戻るにすぎない。それは最も安全なコースかもしれないが、最も先見性の高いコースとは言えまい。そのうえ、今後生じる混乱を乗り切るのに十分でない場合もあるだろう。

今後の数年間成功し続けるには、CEOが自社の本質を見いだすヒン トとなる5つの問いを絶えず検討する必要がある。
重要な戦略とはどのようなものか?
必要不可欠なテクノロジーとは何か?
必要な人材は誰か?
真に必要なリーダーは誰か?
特に重大なリスクとは何か?
過去の経営層スタディ
2023 C-suite Study reports
役職別レポート
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