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生成AI時代におけるITコスト最適化の鍵とは

CEOのための生成AI活用ガイド第6弾 ー テクノロジー投資

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第六弾として、「テクノロジー投資」をお届けします。
 

視野を広げ、IT支出全体に目を向けましょう。


生成AIへの投資は一度に済むようなものではありません。革新的なこの技術は、あらゆる事業部門に影響を与えることが予想されます。しかも、そのインパクトはIT資産全体にまで及びます。

生成AIの可能性を最大限に活かすためにビジネスモデルや業務内容、ワークフローの再考を進めているCEOは、広くIT支出全体に与える影響についても、慎重に検討しなければなりません。しかし、必ずしもそのすべてが明確になっているわけではありません。

従ってまずは、IT支出の可視化を進め、資金の流れの把握や体系的な管理を強化する必要があります。支出データを幅広い視野から捉えることで、ワークフローや、業務プロセス、手順、あるいはシステム・アーキテクチャーそのものの再評価が容易になります。

再評価を進める中で、大きな変革の必要性が生じることがあります。しかし、それに対応するIT予算は確保できるのでしょうか。必要なのは、競争優位に直結するプロジェクトに予算を重点配分することです。“パンにピーナツ・バターを塗り広げる”ようにITポートフォリオ全体に生成AIの投資を割り当てることは避けなければなりません。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「支出+生成AI」

生成AIの導入が加速する中、予想外の支出が増加しています。

 

生成AIが、従来の予算管理の限界を浮き彫りにしています。新しい技術が常にそうであるように、生成AIの状況もまた、日に日に変化しています。こうした変化は、これまでのような予算管理のプロセスにおいて、生成AIを事業に組み込む際に、大きな壁となっているのです。

もし次の会計年度、あるいは次の四半期に、どの生成AIプロジェクトが最も重要となるのかが見極められないとしたら、いかがでしょうか。予算の効率的な配分など不可能になります。このイノベーションは、IT予算に混乱をもたらそうとしています。しかもデータは、すでに根本的な変化が生じていることを示しています。

技術担当役員によると、現在、2023年の生成AIの予算はわずか4カ月前から3.4倍に増えています。これは企業規模が200億ドルと仮定した場合、わずか1四半期で支出が500万ドル上方修正されたことを意味します。IBVでは、生成AIがより成熟し、ユースケースが具体化するにつれて、これらの額は上昇し続けると予想しています。

 

技術担当役員によると、現在、2023年の生成AIの予算はわずか4カ月前から3.4倍に増えています。こうした増加分を新規投資へ充てる予定の企業は、全体の15%にすぎません。

しかし、こうした増加分を新規投資へ充てる予定の企業は、全体の15%にすぎません。一方で、回答者の33%は、自社のITポートフォリオの他の領域、すなわち生成AI以外のIT支出を削減し、生成AIへと予算を振り替えることを計画しています。また回答者の37%は、より広いAI全般に対するポートフォリオから、生成AIの予算を振り替えることを検討しています。これは従来型のAIプロジェクトと生成AIプロジェクトとのシナジーを考慮した結果、またはAI関連のプロジェクトについて、ポートフォリオをふるいにかけ、どのプロジェクトが効果が高いかを見極めようとしたか、あるいはその両方の可能性があります。

こうした予算の再配分についてのアプローチは、一定の理解はできます。しかし現実的かというと、そうではありません。生成AIの展開が全社的に進むと、支出の影響も全社に広がっていきます。特に人件費とクラウド費用は、生成AIを活用したソリューションへの需要が高まるにつれて、増大するでしょう。全体として、生成AIがITコスト全体に及ぼす影響は、かなりのレベルまで拡大すると思われます。その段階に達した大企業であれば、たとえ予算を増やしたとしても、500万ドル程度ではすぐに使い切ってしまうでしょう。

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「支出+生成AI」

IT予算が急増しても歩みを止めない

 

CEOは、影響の大きいプロジェクトにおいて、人的資源と技術的資産がどのように使われるかを常に把握し、関連するコストについて、正確な予想に基づく予算計画を立てる必要があります。

 

  • 支出を幅広い視点から捉えます。生成AIに期待される効果を得るために必要となるITコストについて、その全体を詳細に評価する必要があります。すべての投資においてさらなるビジネス価値を引き出すためには、IT費用、クラウド費用、人件費といった関連するコストのすべてを総合的に分析しなければなりません。
     
  • 財務管理手法「FinOps」を全社規模に拡大します。AI、ハイブリッドクラウド、およびアプリケーションのモダナイゼーションに関わるコストや支出を、すべて可視化しましょう。さらに従業員が取り組んでいる業務と、それにかかるコストを把握し、さらに、それを、具体的なプロジェクト、アプリケーション、施策に対応付けて最適化を図りましょう。

     
  • GPUの価格を常に意識します。生成AIには、極めて処理能力の高いグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)が必要です。しかし、GPUの供給不足は深刻で、その市場価格は、通常、生成AIサービスの構築、提供価格を押し上げるため、企業が使用するクラウドのコストに反映されることが予想されます。

 

リーダーが知るべきこと2ー 「人材+生成AI」

人件費がAI戦略の足かせになっています

 

生成AIは、「ハイプ・サイクル」*で取り上げられている多くの革新的技術と比較して、すでに直感的な利用が可能となっているものです。しかし企業がビジネスにおいて優位に立つには、専門知識を持つ人材が社内に必要です。

一方で、生成AIの専門知識を有する高度人材は少なく、給与水準も上昇しています。

ウォールストリート・ジャーナル紙によると、シニアAIエンジニアに提示される給与の最高額は90万ドルで、初級レベルのプロンプト・エンジニアでも13万ドルからとなっています。さらにエンジニアが探しているのは、自分のキャリアにプラスになる仕事です。決して他の従業員と同じ扱いをしてはなりません。

*ハイプ・サイクルとは、新たな技術に対してどのような期待が可能か把握するために、時間軸に沿って期待度が辿るパターンを図示したもの。期待度の推移は黎明期、流行期、幻滅樹、回復期、安定期の5つのフェーズに区分される。

 

人件費の算出方法は、変わる傾向にあります。72%の経営層は、生成AIが従業員に及ぼす影響を評価するまでに至っていません。

 

エンジニアの層を厚くしたい企業は、たとえ人材コストが高くても、ちゅうちょせずに支払うべきです。また、新たなポジションを用意し、彼らが目的を持って自律的に働き、新しい技術に習熟する機会が得られるようにしなければなりません。しかし技術担当役員が行っている予算計画は、現状を維持するだけのものです。

実際、技術担当役員は、人件費全般の削減を見込んでいます。新規採用にかかる人件費は、2023年は生成AI関連コストの18%に達すると見込んでいますが、2025年には16%に収まると予測しているのです。72%の経営層は、生成AIが従業員に及ぼす影響を評価するまでに至っていません。従って16%という数字は、希望的観測と言えるでしょう。

リーダーが重点的に取り組むユースケースの選別を進める中で、関連する人件費の算出方法は変わる傾向にあります。それは、各生成AIモデルにかかる人件費が異なるためで、そのため、導入のたびにかかる新たなコストが異なることになります。これにより、リーダーは、まだ存在していない職務についての財務的な影響を見積もる必要に迫られ、困難な状況に追い込まれています。

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「人材+生成AI」

人件費の課題を乗り越える

 

優秀な人材は、ROIが高く、大胆なプロジェクトに魅力を感じます。しかも、そうしたプロジェクトであれば、高まるAI人材コストの一部を吸収できるかもしれません。ただし、その他の従業員より高い給与水準を企業として許容する必要があります。
 

  • 人材市場の現状を正しく把握します。自社が獲得可能な人材はどのようなタイプか、十分に検討します。また、社内人材からの調達を推進します。適切なスキルを持つ人材(あるいはスキルの習得に関心を持っている人材)と、募集人材をマッチングするマーケットプレイスを社内に構築することで、社内でスキルと柔軟性を確保します。

  • 生成AIのビジネスケースすべてに、市場ベースの人材コストをきちんと盛り込みます。ビジネス・ケースについて、実現の可能性をモデル化する際は、想定される人材コストを盛り込むことも必要ですが、その仕事から得られるスキルや成果がいかに魅力的なものかも考慮に入れるべきです。
  • 戦略的パートナーと連携します。生成AI戦略の設計・実行に必要な人材をどこが提供してくれるのか。特に、テクノロジー・プロバイダーやグローバル・システム・インテグレーター(GSI)との協力を通じて、判断します。


リーダーが知るべきこと3ー 「戦略+生成AI」

成長の実現には投資の見直しが不可欠 です。

 

体制の引き締めによって、膨れ上がったIT予算から、数百万ドルをカットすることができるかもしれません。しかし合理化による支出の削減だけでは、効果に限りがあります。

CEOが思い描く、飛躍的な利益向上を実現するために必要なのは、どのユースケースが最も変革的な成長につながるのか、それを見極めることです。例えばChatGPTのような、一般に公開されている生成AIサービスについて調査したところ、それを従業員が利用できるようにすることで優位性を得られると考えている経営層は、わずか2%です。しかしベンダーのプラットフォームを使い自社が持つ独自のデータを活用することで優位に立てると回答する経営層は、38%に上ります。

 

生成AIに関連する予算の4分の3に当たる74%は、コスト・カットの効果が期待される部門、すなわち、人事、財務、カスタマー・サービス、セールス、マーケティング、IT部門に割り当てられています。企業の成長をけん引するイノベーションを醸成する、製品に関わるビジネス部門に投じられる予算は、全体の26%にすぎません。

 

それにもかかわらず、企業は、生成AIの予算を収益を生むビジネス領域に重点的に配分せず、いくつものコスト・センターに均等に分配しています。生成AIに関連する予算の4分の3に当たる74%は、コスト・カットの効果が期待される部門、すなわち、人事、財務、カスタマー・サービス、セールス、マーケティング、IT部門に割り当てられています。企業の成長をけん引するイノベーションを醸成する、製品に関わるビジネス部門に投じられる予算は、全体の26%にすぎません。

こうした事情から、現状を打破するようなビジネス・ケースを策定することが難しくなっています。成功をつかむためには、どの生成AI事業が、戦略目標の推進に最も寄与するのかについて、データに基づいて意志決定を行わなければなりません。それに基づき予算を配分するのです。同時に、完璧主義に陥らないことも重要です。早期に達成できる目標を1つか2つ実現することは、よりスケールの大きなビジネス・ケースを構築する助けになるでしょう。

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「戦略+生成AI」

分析を積み上げ全体像を把握することで、より良いビジネス・ケースを構築する。

 

生成AIプログラムへの投資において、最も大きなリターンを得られる領域はどこなのか。データを深く分析し、見極めることが重要です。実行するだけの価値があるイニシアチブの設計が完了するまでは、予算の精度を気にし過ぎるべきではありません。
 

  • プライベート・エクイティのスタイルを活用する。プライベート・エクイティ投資会社がIT分野に投資する際の方法に学び、3年以内の企業価値向上につながりそうにない施策は、ためらわずに切り捨てます。またその分の予算を、有望なプログラムに振り向けます。
     
  • 戦略的IT投資を設計するための方法やプラクティスを、抜本的にモダナイズする。短期的な費用削減だけでなく、全体的な成長のポテンシャルを考慮して、予算を配分するようにします。避けるべきは、生成AIの予算を社内の各サイロへ、“パンにピーナツ・バターを塗り広げる”ように均等に割り当てることです。
     
  • エコシステムを常に念頭に置く。生成AIから最大の価値を引き出す方法について、戦略的なITサービス・プロバイダーや自社の重要な顧客を巻き込んで、話し合うことが必要です。ビジネスモデルのイノベーションを、グループのプロジェクトにします。

 

本ページに記載されたインサイトは、IBM Institute for Business Valueがオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施した、2つの独自調査で得たデータと、ウォールストリート・ジャーナル紙からの外部参考資料1件に基づいています。第1回調査は、生成AIがテクノロジーに関連するコストに与える影響に関するもので、2023年8月から9月にかけて実施され、米国を拠点とする企業の136人のCIOおよびCTOが回答しました。第2回調査は、より広範な生成AI全般についての視点に関して、2023年4月から5月にかけて実施され、より広く米国、英国、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、そしてインドの369人の経営層から回答を得ました。


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発行日 2023年9月26日

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