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テクノロジーとデータはいかにしてメンタルヘルス・ケアの敷居を下げれるか

メンタルヘルスに関する情報を提供し、利用者がそれに基づいた行動を取ることは、テクノロジーとデータの最も重要な活用方法の一つである。

世界のメンタルヘルスの状況

世界中のコミュニティーや企業、軍人、家族、大学のキャンパス、その他の社会集団が共通のジレンマに陥っている。私たちは皆、世界規模でのメンタルヘルスの危機に直面しており、そのことで甚大な損失を被っているのだ。

この危機による損失は、2030 年までに世界全体で16 兆ドルに達すると推測されている。この損失にはヘルスケアやその他の治療費など直接費も多く含まれるが、その大半は間接費である。ここでいう間接費とは、生産性の低下のほか、教育、ソーシャル・サービス、法的処置などに関連した支出という形で現れるものも含む。さらに、精神疾患は広く蔓延している一方で、概して過小評価されているという一面もある。

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しかし、真の意味での損失とは、単に貨幣価値だけで推し量れるものではない。例えば、世界の精神医学、公衆衛生、神経科学の専門家のほか、精神疾患患者と擁護団体から成るグループが、メンタルヘルスの危機によって世界中に長期的な悪影響が残ると予測するレポートを発表した。 医学誌のThe Lancet では、精神疾患のある人々が、雇用や教育の機会、その他重要な人生経験を得る権利が否定されることのないよう、基本的人権に根ざしたアプローチを求めている。

不名誉やスティグマといった多くの理由により、メンタルヘルスの問題は、依然として身体的な健康問題よりも後回しにされている。発疹や発熱、関節痛などの身体症状を調べるためのウェブサイトやアプリは数多く存在する。しかし、メンタルヘルスの状態や隠れた症状を正しく把握・理解したい人にとっては、インターネットを利用しても正しい情報にたどり着けず、かえってインターネットを利用することで、より困難な状況に陥っているとも言える。

技術から生まれる希望

今後、時間の経過とともに、メンタルヘルスの課題に対応した技術適応の高度化と精査が進むことが期待される。現在、アプリをダウンロードして使っている人々は、自分が何を手に入れているのか、その内容の出典元が誰の「専門知識」によるものなのか、必ずしもわかってはいない。

医療へのアクセスは、テクノロジーとデータを活用することで解決できる、最も重要で影響力の大きい問題であろう。メンタルヘルスの課題解決に役立つツールが利用できない場合、患者と家族、そしてその生活・仕事・娯楽の場であるコミュニティーに対して、広範囲にマイナスの影響が及ぶ可能性がある。

患者が自分の気分や体調をチェックし、健全な行動を取るように促すテクノロジーは、すでにスマートフォンやスマート・ウォッチ、スマート・カー、スマート・ホームなどに組み込まれている。

課題の範囲

現在、ほとんどの国でメンタルヘルスへの意識を高めたり、直接、間接を問わず、メンタルヘルスに影響を受けている人々を支援したりする取り組みが進んでいる。世界の人口の10% を超える10 億人が、精神疾患または薬物乱用・依存症を患っていると推定されている。

また、2015 年に世界保健機関(WHO)は、3 億2,200 万人(世界の人口の4.4%)が鬱病で苦しんでいると報告している。世界人口に占める不安障害を抱える人の割合は、鬱病を併発している人を含めると、3.6%になると推定される

急増するメンタルヘルス疾患の治療において、リソースに限りがあったり、そもそも利用できなかったりする人たちが、社会から疎外された場合には、その困難さはさらに深刻度を増すだろう。

メンタルヘルス・ケアへの門戸を広げることは、世界中にメリットをもたらす。もはや治療や教育は、十分な所得や「正式な」住所を持つ人たちだけが受けられるものではない。誰でもスマートフォンさえあれば、自分自身や家族、従業員、出会った人を助けるために重要な情報を得ることができるのだ。


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著者について

Dave Zaharchuk

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, Research Director, IBM Institute for Business Value


Heather Fraser

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, Global Lead for Healthcare and Life Sciences, IBM Institute for Business Value


Dr. Lydia Campbell

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, Chief Medical Officer, Corporate Health & Safety, IBM Corporation


Aimee Johnson, LCSW

Connect with author:


, Office of Mental Health and Suicide Prevention, US Department of Veterans Affairs


Dr. Heather Stuart

Connect with author:


, Professor of Public Health Sciences, Queen’s University

発行日 2020年10月1日

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