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CEOのための生成AI活用ガイド第4弾 ー 顧客体験と従業員体験

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第四弾として、「顧客体験と従業員体験」をお届けします。

 

テクノロジーが設計と一体化すれば、高い価値を生み出します。生成AIがエクスペリエンスと一体化すれば、爆発的価値を生み出します。

 

今日、デジタル技術を活用していない製品などないでしょう。企業はこぞってデジタル・エクスペリエンスを顧客に提供し、その競い合いが業界を問わず、あらゆる企業に広がる中で、顧客が抱く期待に変化が生じ、競争も激しさを増しています。

今、高度なパーソナライゼーションを提供することは、生易しいことではありません。個人ニーズに的を絞った提案や、適切なお薦め情報、シームレスなサービスを顧客が求めているためです。ただ、顧客の要望を踏まえた対応を行うだけでは不十分です。直感性も備えたエクスペリエンスを実現する必要があります。求められる前に先んじてサービスを提供すべきです。

生成AIの登場によって、こうした取り組みが進むことへの期待感が高まり、企業はそのためのツールも手にするでしょう。実際、自社のエクスペリエンス設計の在り方を今後、破壊的に再構築する可能性が最も高い最新技術は、生成AIだと世界の経営層はみています。

例えば、オンライン小売業者であれば、検索機能の効率化に生成AIを活用できるでしょう。顧客はカテゴリーやフィルターの機能を使わなくても、自然言語で欲しい商品を入力・発話して注文でき、色やサイズ、素材など主なディテールも指定できます。予算や配達希望日を条件に含めて検索結果を絞り込むことも可能です。発注の顧客利便性が高まることだけがメリットではありません。業者側も、ビジネスの意思決定に将来活用できる貴重なデータを顧客から得られるのです。

これはユースケースの1つに過ぎず、可能性は無限にあります。現状ではすべてのエクスペリエンスにAIを取り入れるのが妥当であり、AIの用途はいずれもエクスペリエンスであるべきです。この2つは分かちがたく結びついています。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「戦略+生成AI」

生成AIは顧客体験を激変させました

 

常にすべての人を満足させることは不可能です。少なくとも、生成AIがない時代には、無理でした。

生成AIを活用して、高度にパーソナライズ(個別化)されたプロセスを構築すれば、「企業と顧客」「企業と従業員」の関係を根本から変えることができます。営業やマーケティング、サービスの各部門を巻き込み、真に360°の顧客データを得ることで、生成AIはエクスペリエンスを見直したり、特定顧客との関係強化に有効な、“次に取るべき最良の行動”を判断したりできます。

例えば、金融機関であれば、内部の顧客データに加え、ソーシャル・メディアやパートナー企業から得たデータを迅速に分析するために生成AIを活用できるでしょう。例えば、チェッキング・アカウント(日常の入出金に使う口座)の新規開設や資産投資、融資の申し込みなどについて、ニーズが高いのはどの顧客かを特定できます。さらに、生成AIを使ってパーソナライズされた戦略を提示したり、個々の要望に沿った自動提案を先方の希望言語でタイムリーに示したりできるため、担当者は真の「1対1」のマーケティングが容易に実現できます。

世界全体で見ると62%の経営層が、生成AIによって自社におけるエクスペリエンス設計の在り方が破壊的に再構築されるだろうと回答しています。この変革の中核を成すのがパーソナライゼーションです。実際、企業が生成AIを活用してエクスペリエンスを刷新する最大のメリットは、コンテンツのクオリティー向上と、パーソナライゼーションが同時に実現されるという点にあります。

 

62%の経営層が、生成AIによって自社におけるエクスペリエンス設計の在り方が破壊的に再構築されるだろうと回答しています。



 

ただ、先行きはまだ明確に見通せない状況です。生成AIの機能を拡張して顧客体験と従業員体験に活用するためのアプローチを社内に有していると回答した経営層は78%に達します。一方で、一貫したクオリティーをどうやって維持すべきかという点について、ほとんどの経営層が引き続き頭を悩ませています。生成AIの出力結果を点検して問題があれば解決するといったプロセスが社内に整っていないとする経営層は半数を超えています(56%)。

クオリティーを管理する方法の1つは、専有の生成AIモデルを利用することです。トレーニングには承認済みの素材を使い、プログラミングは特定のパフォーマンス基準に従います。またアクセス権限は従業員に限ります。社内の既存インフラストラクチャーにもシームレスに統合できるため、ユーザー体験を一体的に提供できます。

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「戦略+生成AI」

障害要因を見いだして除去します

 

生成AIは誰もが利用できる一方で、その使途を巡るCEOの判断が、他社との差別化を実現する可能性があります。生成AIを使って大量のユーザーデータを分析することにより、共通の問題を特定したり、直感的かつ魅力的でユニークなエクスペリエンスを設計したりできます。生成AIをビジネスの起爆剤とすべく挑戦し、輝かしい成果を目指すべきです。
 

  • 設計担当者に対し、コンテンツ・キュレーション(情報を収集・整理し、意義付けすること)に努めるよう促します。生成AIを活用してコンテンツ制作力を拡張することで、適応型の設計を生み出します。これは、ユーザーがどのようにコンテンツにアクセスし、利用しているかというデータを基に自動調節を行う設計です。独自性を打ち出せるディテールには、人間的情緒を添えます。
     
  • 専有データをすべて重点利用します。すべてのユーザーがエクスペリエンスに同じ反応を示すわけではありません。オープンなモデルに加え、補完的に専有データへの投資を拡大すれば、自社の顧客と従業員に特有の行動パターンを生成AIで特定しやすくなります。生成AIに加え専有データを活用できれば、長期にわたりエクスペリエンスをパーソナライズし、洗練・向上させることもできます。 
     
  • 足元リスク十分目配りします。生成AIを使うのは、複雑なことをシンプルにするためであって、その逆ではありません。ユースケースごとのガイドラインを確立することによって、問題がどこにあり、生成AIがエクスペリエンス設計をどう改善できるのかを事前に特定できるようにします。生成AIの各アプリケーションを展開する前に、リスク要因を洗い出し、対策を施します。AI対応を急ぐ必要がある中でも、不要なリスクを回避する慎重な行動が求められるため、双方のバランスを取ることが大切です。

 

リーダーが知るべきこと2ー 「顧客+生成AI」

「顧客の信頼」が新たな共通価値となっています

 

生成AIを活用すれば、これまでにないほど迅速に顧客の求めに応じることができます。ただ、「信頼」という基盤があってはじめて、こうした利便性に価値が生まれるのです。

生成AIによって、パーソナライズされたお薦め情報が提案されると、顧客が選択できる幅は狭まることになります。それ自体は分かり切ったことですが、顧客が自分の関心や価値観に合った提案を受けていないと感じた場合は、顧客との関係は強化されるどころか、損なわれてしまいます。

このバランスを適切に取ることが極めて重要ですが、CEOは生成AI導入を急ぐよう求めるプレッシャーも感じています。企業は環境変化のペースに遅れないよう、以下の複数領域で顧客向け生成AIの展開を急いでいます。
 

  • 音声:生成AIを使った音声対話サービスを顧客向けに利用している企業は27%で、2025年までに導入を見込んでいる企業は75%に上ります。
     
  • チャット:生成AIを使ったテキストベースのチャット・ボットを顧客向けに利用している企業は42%で、25年までに導入を見込んでいる企業は84%に上ります。
     
  • アウトリーチ(働きかけ):顧客へのアウトリーチに生成AIを利用している企業は33%で、25年までに導入を予定している企業は81%に上ります。

ただ、ビジネス・リーダーの80%は生成AIの導入を進める上で、説明可能性や倫理、バイアス、信頼が主な課題になるとみています。このような倫理的課題への対処に必要なガバナンスや組織の体制が、現時点で自社に欠けているとするビジネス・リーダーは半数に上ります。

導入のスピードを優先して、こうした対応を後回しにする企業もあるでしょうが、大部分は「責任ある行動」を第一に考えています。事実、72%の経営層は、生成AIのメリットと引き換えに倫理が損なわれかねないと判断した場合は、取り組みから退くと回答しています。生成AIへの関与を減らすことが逆にプラスに働く、というケースです。このような企業は他社を収益成長率で上回る割合が27%高くなっています。

 

生成AIを巡って倫理を重視する企業は、他社を収益成長率で上回る割合が27%高くなっています。

 

この収益成長の要因は何でしょうか。突き詰めると、成熟性に行き着きます。見通しが不透明なために、慎重に行動する方が結局は速く、長く進むことができるのです。生成AIを長期的に構築したいと考えるCEOにとって、思わぬ問題に足をすくわれないよう注意することや、顧客の信頼を確保することが最重要課題です。生成AIのような未知の領域で本来の信頼を獲得するには、徹底した透明性を図ることが欠かせません。

一例としてウェアラブル技術を考えてみましょう。生成AIを活用したアプリによって、ユーザーの運動習慣や睡眠パターン、食事、身体的特徴に関するデータを取得し、要改善点や懸念事項などの結果をまとめて示します。ユーザーは結果について自然言語で質問できます。ただ、こうしたプロセスの前提として、アプリによるデータの収集・分析をユーザーが許可する必要があります。生成AIがユーザーのデータをどのように保護し、処理するのかを明確に説明し、フィードバックも容易にすること。それによって、ユーザーは安心して生成AIを利用でき、顧客とのエンゲージメント(深い関係性)と企業に対するロイヤルティーが強化されます。

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「顧客+生成AI」

顧客の信頼につながる倫理的なプロセスを創造します

 

革新的なエクスペリエンスの実現に迅速に取り組む一方で、共感性を基に顧客を導き、信頼関係を構築することも必要です。倫理重視を第一に掲げ、顧客にフィードバックを求めることで、顧客との関係を強めたり、問題点を明確にしたりすることが容易になります。さらに、顧客ニーズの変化に合わせて対応を変えていく助けにもなります。
 

  • 顧客への共感によって信頼を構築します。顧客体験を設計する際、「共感」を指針とします。顧客の懸念を踏まえて生成AIの倫理を整備することで、顧客の信頼を勝ち取ります。同じ倫理基準をエコシステム・パートナーと共有します。

  • データ・プロビナンス(来歴)拡充し、データの宝庫を実現します。信頼に値するエクスペリエンス を顧客に提供し、代わりにデータを得ます。この繰り返しで製品・サービスの改善およびパーソナライズに努め、それによって成長を促し、投資利益率(ROI)を高めます。
     
  • ーケティング高度パーソナライズを完成させます顧客と企業の最初の接点からエクスペリエンスに生成AIを活用します。顧客の信頼を得るために、生成AIを活用して、パーソナライズされた市場キャンペーンや特定層を対象とした広告を強化します。顧客へ直接働きかけるアウトリーチについても深化を図ります。さらに、継続的なフィードバックを顧客に促します。


リーダーが知るべきこと3ー 「従業員+生成AI」

生成AIは従業員体験を再構築する可能性を開きます

 

生成AIはあらゆる業界の仕事を一変させるでしょう。以前であれば機械で処理できないほど複雑だったタスクも、自動化が可能となりました。そうはいっても、ビジネス・リーダーは見境なしに従業員を生成AIで置き換えようとしているわけではありません。業界平均で経営層の87%は、生成AIは従業員に取って代わるのではなく、その能力を拡張すると予想しています。

人間と機械のパートナーシップを構築する上で、従業員の反発を抑えながら参加を促すことは、組織変革を進める上で、大変な課題です。企業がこの課題に適切に対処できれば、大きな成果を得ることができます。実際に、優れた従業員体験を提供できている企業は、そうでない企業に比べ、収益成長率で他社を上回る割合が31%高くなっています。

優れたエクスペリエンスは、チェンジ・マネジメント(改革に伴う環境変化を円滑に定着させるための管理手法)の究極のツールでもあります。新しい働き方を受け入れようとする意欲を従業員に喚起するためです。単純な翻訳やデバイス最適化といった、単調なタスクを企業が自動化すれば、従業員は価値の高い作業に集中でき、生産性と満足度が高まります。こうして生産性が高まれば、ついには従業員がイノベーションを起こせるようになるのです。それによって他社との差別化につながる独自性が生み出され、仕事にも面白みが増すでしょう。

しかし、簡単なタスクをすべて自動化した場合、最も難易度が高くフラストレーションがたまる仕事だけが従業員に残る弊害にもつながりかねません。業務の効率化と従業員の仕事内容に適切なバランスを取るために、バリュー・チェーンのどこにAIを導入するのかについて、CEOは慎重に検討しなければなりません。オペレーション・モデルを再考するに当たっては、従業員の業務環境を最も効果的に改善するということを念頭に、生成AIを活用することが必要なのです。

例えば、生成AIを活用すれば、バックオフィスのシステム向けにシームレスな対話インターフェースを提供することが可能となり、自然言語を通じた従業員体験を実現できます。フロントエンドのユーザー・インターフェースをバックエンドの処理や保存作業から切り離したヘッドレス・エクスペリエンス では、基盤となるシステムの複雑性は見えない状態になり、ユーザー操作が円滑化されます。  

最終的な目標は、従業員がタスクを日常的に管理できるワンストップ・ショップ(すべてのサービスがそろう場所)を提供することです。時間管理や人事、実績評価、成果管理などのデジタル・プラットフォームごとに別々にログインさせるのではなく、ヘッドレス・エクスペリエンスによって、従業員がすでに使用している1つのツール(Slackなど)で、より多くの作業を行えるようにします。企業がシステムを切り替えても従業員体験は変わらず、部門のサイロ間をまたぐプロセスにかつて存在していた分断性は解消されます。このこと自体が革命的といえます。

業務改善の軸に生成AIを活用することも、業績向上を図る上で効果的です。例えば、従業員による生成AIの利用について、より正式な形で管理している企業は、従業員体験への投資で得られた利益が他社より46%高くなっています。ただ、わずか37%の企業しか、正式なアプローチを備えていません。

 

リーダーの回答によれば、AIを正式に管理 することで、従業員体験に対する投資の利益が46%高くなります。ただ、わずか37%の企業しか、正式なアプローチを備えていません。

 

従業員側は生成AI導入への心の準備ができています。54%の従業員が最新テクノロジーによって自分の仕事は不要になると懸念しつつも、同時に84%の従業員は職場におけるテクノロジーの高度化に対応できる自信を持っており、実地経験も強く望んでいます。最新テクノロジーを使った職場で働ける場合は、収入減も受け入れるとの回答は約半数に達します。

それにもかかわらず、従業員への配慮を後回しにして、生成AIの導入へひた走るCEOも存在します。生成AIの導入が従業員に及ぼす影響について評価を行っているCEOはわずか28%に過ぎず、その半面、従業員の削減や配置転換に踏み切ったCEOは43%、人材を追加採用したCEOは46%存在します。

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「従業員+生成AI」

従業員の要望に応えることはもちろん、それ以上の満足を提供します

 

生成AIを活用すれば、従業員は最先端のオペレーション・モデルで仕事ができます。人間と機械によるパートナーシップの効果を高めることによって、その一方だけでは実現できない、大きな価値を生み出すことができます。ただし、そのためには、常に従業員エンゲージメント(企業と従業員の相互信頼・貢献)を第一に考えることが必要です。
 

  • 究極のチェンジマネジメント・ツールである「優れたエクスペリエンス」利用します。生成AIに対するイメージを高めるために、従業員の効率性や生産性の向上にどうつながるのか、従業員のキャリアにどういった意味を持つのかについて具体的に示します。従業員からも意見を聞く機会を設け、好ましくないエクスペリエンスがあれば、改善します。
     
  • 人材面の課題オペレーション・モデルの発展につなげる好機と捉えます従業員が業務能力を高めて最高の成果を出せるように、対話型AIやハイブリッドクラウド・プラットフォーム、インテリジェント・ワークフロー、さらにはアジャイルな働き方を一体的に整えます。
     
  • 従業員の関与広げます人間中心のエクスペリエンスを設計したり、生成AIの適用段階に入ったタスクを判断したりする際、従業員のサポートを仰ぎます。従業員とデジタル・アシスタントを組み合わせて活用します。人事部門のタッチポイントを手始めに、こうした取り組みを順次拡大していきます。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Valueがオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施した、顧客体験、従業員体験、および生成AIに関する4度の独自調査のデータに基づいています。第1回調査は米国、英国、カナダ、インド、オーストラリア、ニュージーランドのエクスペリエンス(体験)設計リーダー212人を対象に2023年7月に行いました。第2回は米国の経営層300人を対象に23年5月に実施。第3回は米国、英国、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、インドの経営層369人を対象に23年4~5月に行いました。第4回は23カ国・2万1,056人の従業員を対象に22年12月~23年1月に実施しました。

 


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発行日 2023年8月29日

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