全世界で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生命や仕事が奪われ、各業界や企業は打撃を受け、予想だにしなかった状況がもはや「当たり前」のものとなった。
全世界で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生命や仕事が奪われ、各業界や企業は打撃を受け、予想だにしなかった状況がもはや「当たり前」のものとなった。
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いずれ平時に戻るとき、そこに広がる光景は、これまでとは違う「ニューノーマル」である。今、何をするかで、未来が決まる。とは言え、決断を下し、確信を持って行動することが、これほど困難なことは、いまだかつてあっただろうか。
しかし、日を追うごとに不確実性が高まる世界においても、レジリエンスを高める行動をとることは可能だ。不確実性の渦中において、進むべき道筋を明示するフレームワークは、企業が生き残る上での鍵を握るだろう。
今こそ、ニューノーマルに対する準備を進めるときだ。事業における7つの重要課題に焦点を当てることにより、アフターコロナで直面するであろう課題に対処するための戦略を構築できるようになる。
本レポートでは、あらゆる企業の経営層にとって有益となる、7つの主要な重要課題に対応したフレームワークを提示する。7つの重要課題とは、以下のとおりである。
- リモートワークの促進
- 顧客とのバーチャル接点の構築
- 事業継続性の強化
- 俊敏性と効率性の促進
- 新たなサイバー・セキュリティー・リスクへの対応
- コストの削減とサプライチェーンの継続性確保
- 医療や行政サービス現場への支援
このガイドは、実用的かつ実行可能なものとなっている。また、これらに未着手である企業が直ちに取り組むべき一連の行動を示している。と同時に、新型コロナウイルス感染症がさまざまな業界や企業、個人の行動パターンにもたらした長期的な影響と永続的な変化を示唆している。これらの変化は、企業にこれまでとは異なる新たな日常「ニューノーマル」に確実に適応できるよう、さまざまな行動変容を促している。
なすべきことは膨大で、それに伴う困難は極めて大きいと思われるかもしれない。だからこそ、今まさに経営層は一丸となって取り組む必要がある。来る時代の「ニューノーマル」は、組織的、社会的、および文化的にさまざまな面で新たな習慣を生み出すだろう。各リーダーは、企業の将来の成功に向けて準備を進める役割を担う。それでは、早速取り組みを開始しよう。
- 推奨されるリーダーシップ: 人材担当リーダーおよび最高人事責任者(CHRO)
閲読に要する時間: 4分新型コロナウイルス感染症によって引き起こされた多くの経済損失の中でも、職場における損失はとりわけ深刻なものの1つであろう。一般的な労働環境での人材管理において、すでにこれまでもリーダーシップや従業員エンゲージメント、生産性、スキルなどは大きな課題となっていた。しかし、今やこれら課題は、より不透明な状況に陥っている。現在のこの世界的な危機が、大規模かつ突発的な変化の加速要因となり、働き方、個々人やチームとのコミュニケーション方法、学習方法やイノベーションの起こし方に至るまで、あらゆることがたった数週間のうちに完全に変貌を遂げてしまったのだ。CHROの業務が、これほどまでに重要かつ困難であったことはいまだかつてない。コミュニケーションやコラボレーション、スキル、文化を仮想モデルで運用したり、維持したりすることは、今や全世界の人事リーダー共通の仕事となった。彼らは、従業員のエンゲージメントと生産性を維持するために、完全な「在宅勤務」モデルへの移行を進め、仮想エージェントを即座に導入し、危機の最中でもエッセンシャル・ワークに従事する社員の動向を把握しつつ、強固なオンライン学習プラットフォームを立ち上げ、同時に事業再開および未知の「ニューノーマル」に向けた計画を進めている。一体どうすれば、これだけの業務を達成できるのだろうか。まず手を付けるべき重要な施策の1つとして、従業員の健康と安全に対する取り組みが挙げられるだろう。最近のIBVの調査によると、在宅勤務中の従業員が最も懸念していることは、自分自身と家族の健康である。そのため、非常事態におかれた多くの企業は、オフィスを閉鎖し、エッセンシャル・ワーカーである従業員を迅速に特定し、関連するツールやテクノロジーを駆使してリモートワーク・ポリシーを実践することに注力してきた。しかし、ネットワーク接続ツールやグループ会議のソフトウェアを提供するだけでは、リモート・ワーカーへの健康支援策としては十分と言えない。また、従業員が従来の職場とは違う場所においても、生産性を保持し続けられる環境の整備は、文化的側面も含め課題と言えるだろう。例えば、リーダーはどのようにして自社の持つ価値を在宅勤務の従業員に体得させ、発揮させることができるのか。チームはどのようにして物理的な距離を超えて協働できるのか。企業はどのようにしてグローバル、またはローカルに従業員とコミュニケーションをとることができるのか。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高マーケティング責任者(CMO)
閲読に要する時間: 3分このパンデミック で、極度なソーシャル・ディスタンスが求められる中、顧客からは前例のない、この状況特有の質問が多く寄せられるようになった。サービス・センターや政府の電話相談窓口、医療機関など、どこも問い合わせの電話応対でひっ迫している。多くの質問が重複しているが、その内容が常にWebサイトの一般的なFAQに掲載されているわけではない。また、多くのセンター要員を訓練して、急速に変化する環境下で正確な回答を提供し続けることが、現在のコンタクト・センターのモデルのままでは困難を極めることは明らかである。急増する需要に対しては、急速な発展を遂げているデジタル・ツールを活用することで対応は可能である。近年、会話型AIは、チャットボット、仮想エージェント、その他の自動化プロセスなど、さまざまな形で企業や政府の業務に取り入れられつつあるが、これを広範囲に普及させる必要がある。2018年にVodafone社は、 TOBiという仮想エージェント を導入することで、従来の人手によるお客様サービスを拡張することに成功した。現在、同じアプローチが新型コロナウイルス感染症でひっ迫する病院、保険機関、政府の電話相談窓口などの対応に利用されている。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高技術責任者(CTO)および最高情報責任者(CIO)
閲読に要する時間: 3分退避指示が発令されたとき、多くの企業からさまざまな疑義を呈する声があがった。例えば、本当に職場から離れた場所で業務に必要な物の入手や作業の実施が可能なのか、また現実問題としてリモート・モデルへの移行が一夜にして可能なのか、といった問いである。IBMはテクノロジー企業であるが故に、期せずして必要なリモート対応はすでに整っていた。しかし、多くの企業では、自社にリモート対応が可能なのか、確信が持てずにいた。このような状況が、結果として各社に事業継続計画の真価を問うこととなり、しばしば計画の見直しにもつながった。必要なのは、最大限の柔軟性と、仮想デリバリー・モデルを支援する技術アーキテクチャーおよび運用上のレジリエンシーである。詳細は「重要課題#4: 俊敏性と効率性の促進」で後述する。CTOとCIOは現状への適応を迫られており、その中でも急ぎ準備すべき最も基本的な内容は以下のとおりである。- 可用性と重要度別に整理・体系化された、アプリケーション・プラットフォーム、サービス、データ・ストアなどの高価値資産の一覧
- 意思決定が迅速かつ安定的に行われるよう最新化された、危機管理における役割や責任を明記した名簿
- リモート・ワーカーやパートナーの実務を支援する、24時間365日体制でのIT運用のサポート機能
- 独立したクラウド・インスタンスを含む、さまざまな場所やアクセス・ポイントへの基幹業務ツールの配布
- 仮想プライベート・ネットワーク(VPN)およびクラウド・ベースの生産性向上アプリを含む、リモートワークのための堅牢なプラットフォーム
- 顧客やクライアントのリモートワークのサポートを含む、重要なサービスとツールのバックアップ機能
- 顧客、従業員、パートナー、およびコミュニティーの利害関係者に対するロジスティクス面でのサポート不足を評価し、対処するための継続的なプロセス
CTOとCIOには、デジタル技術を最大限に駆使して運用のレジリエンシーや柔軟性を高める、詳細な事業継続計画が必要である。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高執行責任者(COO)
閲読に要する時間: 4分2019年までは、企業や政府、その他多くの組織・団体にとって、オンサイトを前提とした運用モデルがごく一般的だった。例えば、これまでは仕事が人のところに来るのではなく、人が仕事をしに行くのが当然であり、顧客やクライアントは、行政サービスの活用・医療機関での受診・食料品の購入・イベントへの参加など、何かをするためには特定の場所に物理的に移動することが大前提だった。新型コロナウイルス感染症は、これらすべてを変えた。今や、私たちはどこにいようとも、そこで仕事ができなければならない。そして、従業員・顧客・協力会社とリモートでつながることを前提として、あらゆることを捉えなおす必要がある。この、いわば強制的な「デジタル変革」に、スムーズに対応できた企業もあるが、行き詰まりを感じつつ懸命にその取り組みを進めている企業も少なくない。仮想マシンから物理マシンへの移行を継続的に成功させ、新たに見いだした俊敏性や技術革新を活用するための鍵は、クラウドにある。今後企業は、クラウド・ネイティブがもたらす計り知れない利益を得るために、運用をモダナイズし続ける必要がある。そうすれば、場所への非依存性、スキルの柔軟性、拡張性、レジリエンシー、相互運用性、いわゆるクラウド・デリバリーとも呼ばれるリモートでのエンゲージメントやデリバリー・モデルへのシームレスな移行など、さまざまな恩恵が享受できる。デジタル変革実現に向けたどのフェーズにあっても、COOは、それまでに学んだことから運用上の教訓を得ることができる。第一に、かつてクラウドは未来予想における最終理想形であったが、今ではごく普通の一般的な環境になった。第二に、企業は期せずして迅速に行動したり、想像以上の俊敏性を身に付けた。第三に、デジタル変革の成功と高速化を妨げていた従来の合理化のあり方は、もはや許容されなくなった。俊敏なデジタル企業になることは不可避であり、今まさに、それを実現する時である。このことは、CEOをはじめとする経営層の考えにも現れている。経営層の79%が、今後2年間は、企業の俊敏性をビジネスの中心的なコンピテンシーとして優先すると述べた。この変化は、最近目覚ましい進歩を遂げている医療分野において特に重要である。例えば、ある医療機関では、在宅療養中の患者向けに 新型コロナウイルス感染症用のアプリケーション を迅速に展開し、3千人を超える人々を支援している。患者は症状を自身で経過観察し、それに基づきリモートで医師にアドバイスを求めることができる。別の例では、欧州の大規模な行政機関が、 オンラインの社会サービス給付金用のアプリケーションを拡張 し、急増するユーザーの需要に応えている。また一方で、仮想デスクトップ・インフラストラクチャー(VDI)は、ソーシャル・ディスタンスによる影響を克服すべく急速に展開されている。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高情報セキュリティー責任者(CISO)
閲読に要する時間: 3分半新型コロナウイルス感染症の影響に世界が苦しむ中、サイバー犯罪者がその動きを活発化させている。彼らはパンデミックの機に乗じて、フィッシング・キャンペーンや、悪意のあるドメインからの標的型マルウェアやランサムウェアなどの多種多様な 新手の攻撃を開始しつつある 。 IBM X-Force は、2月以降、コロナウイルス関連のスパムが4,300%増加したことをつきとめた。サイバー犯罪者は、ダークウェブ上でのウイルス関連マルウェア商材の販売から、割引コードの発行に至るまで、コロナウイルスの発生を自分たちのビジネスに悪用できないかさまざま試みている。彼らはまた、ドメインの作成も急ぎ進めている。新型コロナウイルス感染症関連のドメインは、同じ時期に登録された他のドメインよりも 悪質である可能性が50%も高い 。サイバー・セキュリティーに対する準備が不足している企業は、最も脆弱な部分を狙われることになる。実際76%の企業には、会社全体に一貫して適用されるインシデント対応計画がない。さらに驚くべきことに、4分の1もの企業には、計画そのものがないのである。ただ、たとえレジリエンシーのある企業でさえ、このパンデミックの先の見えない状況に限界を迎えつつある。あらゆる企業は、現在の緊急事態を踏まえた上で、自社のサイバー・レジリエンシーを再評価すべきである。このことは、調査データからもその必要性が証明されている。例えば、コロナウイルス発生の前後を比較した調査によれば、サイバー・セキュリティーをビジネス・コンピテンシーとしてさらに優先するようになったと回答した経営層の割合は、30%近く増加している。リモートワークへの急速な移行は、サイバー犯罪者に新たな抜け道を提供することとなった。多くの在宅勤務の従業員は、デジタルの安全性を最大限に確保可能な機器や通信接続手順を備えていない。従業員が企業ネットワークに個人用デバイスからアクセスするとき、ハッカーはWi-Fi構成やVPN接続の脆弱性を探っている。クラウド・ベースの生産性戦略プラットフォームに人々が集まると、悪意のある攻撃者はその状況を利用して、 ハッキングしたり、ライブ・ミーティングを妨害したりする 。 最近行われたThreatpostのオンライン投票 によると、リモートワークを始めた途端、サイバー攻撃が増加したと報告した回答者は、全体の40%にも上った。CISOは、自ら先頭に立って自社の計画・対応の仕組みの改善に取り組む必要がある。すでに実施しておくべき対策は以下のとおりである。- 職域を超えたメンバーから構成される、運用状況の健全性およびリスク指標をプロアクティブに追跡する危機管理センターの設立。追跡すべき対象には、従業員、クライアント、パートナー、サード・パーティーの協力会社などが含まれる。
- 企業の準備度を評価する、ライブ・シミュレーション演習に基づくインシデント対応プレイブックの作成
- リモート導入可能なフォレンジック・ツールの推奨セットや、デジタル・エビデンスを明確に追跡調査可能な仮想サイバー・インシデントの報告および対応
- 増加し続けるリモート・ワーカーのセキュリティー確保。そこには、モバイル・デバイスやラップトップの統合エンドポイント管理、ユーザー・アプリケーション・データを保護するIDとアクセス管理なども含まれる。
- セキュリティー・チームの能力を迅速に拡大させたり、専門領域のスキル増強や専門家への協力を必要に応じて行える、リモートおよび仮想セキュリティー専門家・分析者へのアクセス
- 特別に「機密」指定された文書や情報に関する管理方法、共有権限、ツールおよび保管
- 新たな脅威やフィッシングのリスクに関する、社内および社外パートナーとの積極的なコミュニケーションの実施
- VPN容量の拡大、エンドポイント検出機能、およびその他のセキュアな接続と検査技術の導入
- 承認されたコラボレーション用のアプリと、安全な使用に向けたトレーニングのための明確なガイドラインの策定
今、多くの企業がサイバー・セキュリティー対応を強化している。あるヨーロッパの保険会社は、ここ数週間の間に、 サイバー・セキュリティー・インシデント対応のための 中核となる新しい 仮想ハブ を実装し、グループ企業を含めた全社での脅威の監視を始めた。現在の在宅ワークの必要性から、より多くのワークロードやユーザーのクラウド運用への移行が加速するにつれ、サイバー・セキュリティーのレジリエンシーは、基本的なパフォーマンス要件から競争優位性を獲得する促進要因へと進化するだろう。先進的として始まったものが、普遍的なものとなって浸透していくのである。より成熟したサイバー・セキュリティー対策・運用に向けて、CISOが踏むべきステップは以下のとおりである。- セキュリティー・テレメトリーと分析を実施する。早期の発見と対応には、データの自動収集が必要となる。最新のテレメトリーの利用とログ・ファイルの収集・分析から、攻撃ベクトルをモデル化し、識別記号を作成すれば、違反事象の再現が可能になる。
- セキュリティーの自動化機能を開発する。Ponemonの調査によれば、セキュリティーの自動化に対する投資は、採算が取れる。自動化が未導入な企業は、本格的に自動化が導入された企業と比べ、違反への対応に割くコストが95% 高くつくと報告されている。
- 脅威インテリジェンスの活用については、それ自体の強度を高める副次的効果も期待されるため、可能な限り推進する。クラウド・ベースのセキュリティー・サービスは、単独の企業よりもはるかに大規模な運用領域のトラフィックを監視し、すべての企業のサイバー・レジリエンシーを強化する脅威インテリジェンスのデータを提供する。脅威インテリジェンスを活用することで、検出と対応の迅速化が可能となる。
- コラボレーションや継続的学習を優先させる。サイバー・レジリエンシーのある企業は、発見・学習・適応・反復という継続的サイクルに基づいた運用を行っている。危機的状況における脅威から効率的に回復できるかどうかは、各個人が複雑な問題に協力して取り組める能力があるかどうかにかかっている。
- セキュリティーに対する意識を高める。セキュリティーは、戦略的な手段の1つと考えられる。ある調査によると、サイバー・レジリエンシーのある企業の51%が、サイバー脅威の防止・検出・封じ込め・対応などの取り組みの有効性について、経営幹部と取締役会への報告を行っている。
- 脅威防止のための先進的な取り組みを加速する。CISOは、高度な脅威の抑止と修復に役立つ専門サービスの提供を可能にするマルチクラウド管理の利点を考慮に入れて、フォレンジック分析や脅威の検出に熟達している必要がある。
- デジタルに対する信頼を醸成する。クラウド・エコシステムが、どのようにしてトラスト・ネットワークへと進化を遂げているのかを考えてみるべきである。相互依存のパートナー関係においては、セキュリティーは連帯責任であり、レジリエンシーはビジネス全体の利益となる。リーダーは、パートナーとの共同作業により、ユーザーやID、エンドポイント・デバイス、運用資産に関する共通のガバナンスを確立する必要がある。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高財務責任者(CFO)および最高サプライチェーン責任者(CSCO)
閲読に要する時間: 3分企業は、資材や部品などが、いつ、どこで、どのように必要になるかを予測して、サプライチェーンを構築する。新型コロナウイルス感染症による危機は、この前提を完全に覆した。つまり サプライチェーンを、より動的に 即応性が高く、企業のエコシステムやプロセスと緊密に連携したものへと変革することの必要性を提起したのである。企業はまた、流動性についても重大な課題に直面している。ある見解によれば、 世界の公開企業の20%以上が 、何らかの介入が行われなければ、今後6カ月以内に 現金不足に陥る とされている。新型コロナウイルス感染症の影響は業界によって大きく異なるが、回復軌道に乗るためには「ニューノーマル」に合わせてバランスを取り直す必要がある。今日のサプライチェーンは、信じ難いほど複雑で、世界的規模で無数のパートナーが貿易エコシステムを構成し、互いに絡み合いながらいくつもの販売地域に分散している。サプライチェーンのリスクを把握するためには、トップ層をはるかに超えて、ティア2およびティア3のサプライヤーの可視性を担保しておく必要がある。これら層のサプライヤーは、規模は比較的小さくても、生産ラインを即座にかつ大規模に停止させる可能性があるからである。2020年初頭の操業停止は、サプライチェーンの地理的多様性に対する強い関心の喚起という波及効果をもたらした。最近の報告によると、 Fortune 1000にランキングされた企業の実に90% 以上が、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックの初期段階において、最も大きな影響を被った中国国内にティア2のサプライヤーを抱えていた。サプライチェーンに関するきめ細かいリアルタイム・データは、「あるに越したことはない」程度のものから、「必須な」ものへと変化した。需要変動は超地域密着型の様相を呈し、ある都市では在庫が過剰になり、別の都市では供給が追いつかなくなる。その一方で、新型コロナウイルス感染症の拡散とパターンに関するマクロ・データを、供給や在庫のデータに重ね合わせることで、フローと需要を予測することができる。多くの企業にとって、数日の時間節約の可否が、危機的事態に対する準備とそこからの回復の両面において、大きな差をもたらす可能性がある。
- 推奨されるリーダーシップ: 最高医療責任者と公共部門のリーダー
閲読に要する時間: 3分半米国では、最低限の社会機能を維持するために必要不可欠と判断された企業以外、ほとんどの企業が当局の指示により閉鎖を余儀なくされた。だが、そのわずか数日前には、 米国の疾病予防管理センターは新型コロナウイルス感染症 に関して次のように述べていた。「大多数の人々にとって、新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルスに晒される直接的なリスクは低いと考えられる」。そしてその直後に、データ・計画共に変更されたのである。新型コロナウイルスによって引き起こされた劇的な変化は、医療従事者や医療機関、また多くの行政サービスに深刻な影響をもたらした。今、多くの市民に対する支援提供のために、テクノロジーによる俊敏性向上が求められる領域があるとすれば、それはまさにこのような医療や行政の現場であろう。Watson™ Assistant: 高速かつ正確な応答の実現新型コロナウイルス感染症が発生したとき、市民は症状や検査場所、学校や交通機関の状況、そしてあらゆる公共サービスについて、必要な情報を探し求めた。しかし、そのことで政府機関や病院、学校、非営利団体および企業は、たちまち逼迫した状況に追い込まれた。市民の質問に対する回答の待ち時間は、時に数時間にまで及んだ。こうした状況のすべてが、市民や顧客、従業員の安全を可能な限り保持しようとする取り組みの妨げとなった。IBMは、IBM Researchが持つWatson Assistantの自然言語処理機能と、Watson Discoveryの業界最先端の企業AI検索テクノロジーを統合して、状況の改善に一石を投じた。目標は、新型コロナウイルス感染症に関するよくある質問を、Watson Assistantが理解して回答できるように学習させ、IBMパブリック・クラウドからサービス提供できるようにすることだった。「重要な情報を市民に発信するために、政府機関や保健機関がAIを利用できるよう支援することは、現在も依然として最優先事項である」と、IBM Data & AI本部長であるRob Thomasは述べた。「今日の環境では、あらゆる業界のあらゆる企業が、クライアントや従業員とデジタルでつながる方法を見いだす必要性があることは明らかだ。IBMは、先進的なAIテクノロジーに関する長年の経験を、新型コロナウイルス感染症の危機に適用している」Watson Assistantは、米国疾病予防管理センターのような外部ソースから提供される、目下利用可能なデータを活用して、米国各地および世界中の政府機関や保健機関を支援するために導入された。その範囲は、カリフォルニア州ロサンゼルス郡ランカスター市から、ニューヨーク州のオトセゴ郡、チェコ共和国の保健省、ギリシャのデジタル・ガバナンス省にまで及んだ。さらに、アーカンソー医科大学においては、IBMは仮想エージェントをわずか9日間で導入した。このエージェントは、検査・症状・情報源などに関する質問にすばやく回答するとともに、必要に応じて、問い合わせを新型コロナウイルス感染症のトリアージ用移動式診療所にオンラインで転送することで、対応を迅速化した。Children’s Healthcare of Atlantaは、Watsonの仮想エージェントを使用して「新型コロナウイルス感染症小児科評価ツール」を構築した。このツールは、一連の質問に対する保護者の回答に基づき、保健機関システムで策定された手順に則って後続のステップを提案する。スペインでは、アンダルシア政府の仮想エージェントが、「Salud Responde」と呼ばれるアプリケーションと公的医療機関のWeb サイトとの双方を活用し、新型コロナウイルス感染症に関する市民からの問い合わせに対応している。英国では、CERiという名の英語とウェールズ語を話す仮想アシスタントがまもなく稼働し、ウェールズ地方の医療従事者および一般市民を支援する予定である。変化するニーズを満たす鍵として、重要な要素を1つ挙げるとすれば、人間中心のテクノロジー・インターフェースを拡張および構築することだろう。これは、正しい処置・ワクチン・治療法を見いだそうと奔走を続ける、政府内外の科学者、研究者、医療専門家を支援することから始まる。またここには、今日の一般市民の身体的、精神的、経済的な健全性確保のために、サポートを提供している人たちも含まれるだろう。
「ニューノーマル」に備える
新型コロナウイルス感染症では、多数の死者が出たことで社会に混乱を来し、経済に影響が及んだ。このような地球規模での公衆衛生危機が、ごく稀にしか起こらないことだけが、せめてもの救いかもしれない。他者や自身への感染を防ぐために、人々は自宅にこもることを強いられた。そして、これが世界中の国で一斉に行われるという、未曽有の事態にまで発展したのである。感染予防の行動規定、それ自体が雇用の喪失・計画の破断・将来ビジョンの凍結など、大きな犠牲を強いるものである。誰も最終的な影響がどう及び、いつ状況が改善するのか、いつ時代を先取りした行動ができるのか、世界がどのようになっていくのか、知る由もない。
しかし、私たちが生きるこの時代には、幸いにも高度なデジタル・ワールドというアドバンテージがある。リモート接続できるネットワークがある。広範な種類のデバイスやソフトウェア、テクノロジーにより、過去の時代には実現不可能であった方法で、運用や計画、そして現在の危機への対応ができている。そういった観点では、私たちが現在経験している変化は、未来への備えでもある。
分散型作業、リモート作業環境、拡張されたデータとアナリティクス、AIと機械学習など、これらすべては、すでに多かれ少なかれさまざまな形で利用されている。今私たちは、これらのテクノロジーをより積極的に活用し、今日の特異な状況に対処しなければならない。その過程で、当座のニーズに終始することなく、人間のあらゆる英知を総動員して、さまざまな可能性を探る必要がある。
精神的な課題は肉体的な課題と同じくらい重要であり、私たちが適応していく上で役立つ洞察と知恵をもたらしてくれる。私たちは今、創造性、流動性、適応性の価値について、学び直しの途上にある。これまでの想像を絶するような多難な道も、チームと共に豊富なリソースを糧として乗り越えてきた。いまだ多くのことが不確実な今、「正解」はどこにもない。そこにあるのは、絶え間なく進化するさまざまな可能性、そして、よりよい未来を創り出すことへの揺るぎない信念のみである。目標は、これらの可能性を将来的なビジョンへと向かう推進力にすることである。危機は過ぎ去る。その先の未来は、私たちにかかっている。
お客様への取り組み
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