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もはや時代遅れ?旧来型サステナビリティーをアップデートせよ

CEOのための生成AI活用ガイド第11弾 ー サステナビリティー

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第十一弾として「サステナビリティー」をお届けします

 

生成AIは、サステナビリティーの拡張に貢献することで、責任ある成長の新時代を切り拓きます。

 

時として、気候変動危機は克服不可能に思えることがあります。排出量目標が設定され、それが達成されず、再設定されるたびに、この状況を果たして打破できるのだろうかと不安に駆られることもあるでしょう。環境問題のリストにさまざまな汚染、森林伐採、種の絶滅などが加われば、地球上の生命の見通しはさらに暗いように思われます。

そこで生成AIの出番です。その圧倒的な能力により、環境データを素早く分析し、パターンの即時発見を通じて画期的な洞察をもたらします。生成AIは、サステナビリティーの領域全体に垂れ込める頑固な問題への解決策を提供することができます。生成AIは万能薬というわけではありませんが、戦略的に利用すれば、企業がサステナビリティー目標を幅広く達成するために役立つでしょう。

CEOはこれまで不可能だった方法でサステナビリティーの取り組みを広げる機会を手にしています。AIを活用したソリューションが、ビジネスモデルのイノベーションを喚起しているためです。生成AIを使えば、サステナビリティーと収益性のオペレーションを同時に最適化でき、理想的なバランスを維持できるよう経営層を支援します。新素材の研究、新デザインのシミュレーション、製品ライフサイクルの評価などを短時間で実施し、コストのかかる試行錯誤のプロセスを不要化することができます。

生成AIはまた、ビジネスの資源効率を高め、コスト、排出量、廃棄物を削減するためにも役立ちます。例えば、エネルギー・グリッド、気象パターン、および使用傾向のデータに基づき、エネルギー配分をリアルタイムで予測して調整することができます。これにより、企業は二酸化炭素排出量を削減すると同時に収益も向上させ、サステナビリティーに関するビジネス・ケースを全体的に強化することができます。

現在のような環境下では、善意だけではもはや十分とは言えません。生成AIが登場した結果、CEOは後付けではなくデフォルトで 企業の仕組みを持続可能なものにすることができるようになりました。これで理想や目標を、ステークホルダーが期待する実行可能な戦略や測定可能なビジネス成果へと変換していくことが可能になります。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

*ネット・ポジティブとは、温室効果ガスの排出量などリスク要因を減らして「マイナスからゼロ」へバランスを均衡させようとするだけではなく、さまざまな環境・社会問題を解決して「ゼロからプラス」へ再生していこうとする取り組み。

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「戦略 + 生成AI」

生成AIは、理想を実現するために有効です

 

企業がサステナビリティーに取り組もうとする強い意欲と、実際の行動には大きな隔たりがあります。このかい離をどう解消すべきかについて、CEOは何十年も苦しんできました。財務コストがネックになって、サステナビリティー目標の進捗が幾度となく阻まれてきたからです。現在でも状況は変わっていません。サステナビリティー戦略が策定済みだと回答した経営層は86%に達しますが、実際に行動に移しているのはわずか35%に過ぎませんでした。

 

サステナビリティー戦略が策定済みだと回答した経営層は86%に達します。実際に行動に移しているのはわずか35%に過ぎませんでした。

 

サステナビリティーの原則を中核事業に組み込むことは、重要な課題となっています。最近のIBV調査では、経営層の72%が、サステナビリティーはコスト・センターではなく、収益実現の推進力だと見ていることが明らかになりました。それでもなお、サステナビリティーは収益とのトレードオフが引き続き必要になると64%が考えています。 そうした中で、生成AIの登場がサステナビリティーの取り組みに新たな変化をもたらしています。

サステナビリティーと収益性それぞれの目標は、相容れぬまま対峙しているのではなく、融合し始めています。生成AIに透明性の高いデータを活用すれば、各リーダーは情報からインサイトを導くことがこれまで以上に迅速になります。それによって、企業はサステナビリティーおよび財務目標の両目標を、同一の戦略的アクションを通じて達成することも可能となります。一例を挙げると、生成AIを使って過去の販売データや市場動向などの要因を分析することによって、将来の需要予測の精度を高めることができます。ひいては、それが企業による生産水準の最適化を促すほか、過剰在庫を削減し、無駄を最小限に抑える力となるのです。

もちろん、生成AIだけで、このすべてが実現できるわけではありません。従来型AIやIoT(モノのインターネット)といった新しいテクノロジーを補完する形で利用する必要があります。当社は成功の柱として「データとエコシステム」「デジタル技術」「プロセスとビジネスの統合」「スキルと意思決定」の4つを特定しました。こうした分野で成熟度が高い組織は、「収益性で同業他社を上回る」との回答割合が43%高いほか、「サステナビリティー活動が収益性を高めている」とする回答割合も52%高くなっています。「サステナビリティーの報告や活動にAIを使っている」との回答割合が33%高いことも、偶然ではありません。

こうした結果は、生成AIが秘める可能性を示しています。現時点で、生成AIは自社のサステナビリティー計画に欠かせないとする経営層は61%で、サステナビリティー向け生成AIへ投資を増やす予定の企業は69%に達します。

では、こうした投資が本当に成果をもたらすのでしょうか。あるいは経営層は蜃気楼を追いかけているだけなのでしょうか。その鍵を握るのがデータです。経営層のおよそ4人中3人は、人手によるデータ処理がサステナビリティーの報告・活動を妨げていると指摘し、データ不備がサステナビリティーの進歩全体に最大の障壁だと考えています。さらに、83%はサステナビリティー目標の達成に、データと透明性の向上が不可欠だと考えています。

 

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「戦略 + 生成AI」

「トレードオフ」を「ウィン・ウィン」に変えます

 

生成AIを活用して、重要なサステナビリティー関連データの欠落をカバーし、報告プロセスを効率化します。さらに、リスク低減を図り、目まぐるしく変わる当局の規制要件にも対応します。一方、データを利用することで、プロセスの自動化や製品・サービスの設計、エネルギー・コストの削減、資源消費の抑制を進める機会を見いだすべきです。その際、サステナビリティーだけでなく、財務面でもプラス効果が働くように留意することが重要です。

 

  • インサイトの質を大幅に高めることで、ビジネスを通じたサステナビリティーの成果を促進します。サステナビリティーに関するデータとインサイトを有効に活用して、企業やエコシステム全体の実績を上げます。さらに、生成AIのどのユースケースが、どういった付加価値をもたらしたり、リスクを招いたりするのかを理解します。サステナビリティーの指標およびデータ上、どういったパターンが価格設定や予算策定、インセンティブ・メカニズムの向上に影響するのかを生成AIを使って見いだします。
     
  • 企業全体にサステナビリティーを浸透させます。サステナビリティーとビジネス、AI戦略を連動させるよう努め、生成AIだけを切り離して推進することは避けるようにします。サステナビリティー指向の生成AI構想を、全事業部門とコーポレート・ガバナンスの枠組みに取り込みます。サステナビリティー目標について報告を行ったり、事業化を進めたりするため、生成AIを活用して関連データの拡張・充実を図ります。
     
  • 現状の「上書き」ではなく、革新を図ります。サステナビリティー向けのイノベーションを生み出す源泉として生成AIを活用し、業務の進め方を変革します。既存の業務プロセスと運営方法を最適化する必要があるからといって、やみくもに自動化に走ることは避けます。

 

 

リーダーが知るべきこと2ー 「エコシステム + 生成AI」

サステナビリティーをチーム・スポーツに例えれば、その中で生成AIは“スター選手”です

 

特定の組織だけで世界全体のサステナビリティー問題を解決に導くことは不可能です。天然資源は国家や企業の垣根を越えて共有されており、どの組織も将来世代のために資源を保護する役割を担っています。

自然のエコシステム(自然生態系)を守るには、そのためのエコシステムが必要であり、そこではすべてのプレーヤーが不可欠となります。AIの専門家、データ・サイエンティスト、環境の専門家、ビジネス戦略家、そして政策立案者が一体となって、サステナビリティー問題の解決策を考案し、実行しなければなりません。

コラボレーションが必要なのは今に始まったことではありませんが、生成AIがゲーム・チェンジャーとなっています。生成AIの登場により、企業はさらに迅速で効果的なコラボレーションを行えるようになりました。実際、生成AIのサステナビリティーへの活用において経営幹部が期待している最大のメリットは、エコシステムのコラボレーションです。例えば、生成AIは、製造業者、材料科学者、消費財メーカーを支援し、希望の特性や環境基準に沿った革新的な組成やデザインを提案することで、今まで以上に環境に優しいパッケージングを開発する際に役立ちます。

高度なアルゴリズムの力を活用すれば、エコシステム全体が、本番直前の土壇場でもさらに持続可能な意思決定を行うことができます。企業はこれに対応するために新たなプレイブックを作成中で、企業の65%は、サステナビリティー向けの生成AI機能をエコシステムのパートナーやサプライヤーと共同開発しています。

 

企業の65%は、サステナビリティー向けの生成AI機能をエコシステムのパートナーやサプライヤーと共同開発しています。

 

社外のパートナーと効果的な協力関係を築こうとしたとき、CEOに求められるのは、障害を取り除くことです。生成AIをオープン・イノベーションに取り入れるためには、最先端のツールを導入する必要がありますが、その際に最大の障害となるのはテクノロジーではなく、データや人材に関する問題だと経営層は答えています。具体的には、データのプライバシー、機密性、セキュリティー、さらには生成AIのスキルや専門知識の不足が挙げられます。

こうした中、経営層は、生成AIが組織のイノベーション能力を強化するのに役立つことを期待しています。生成AIをイノベーションに活用することを検討している経営層の92%以上が、生成AIを従業員の代わりではなく、従業員を強化する手段であると考えています。

 

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「エコシステム + 生成AI」

エコシステム・パートナーと協力して1+1を3にします

 

企業全体およびエコシステムを通じてインパクトを拡大することにより、サステナビリティーと利益を互いに補完的なビジネス目標として追求していきます。生成AI機能をパートナーと共同開発することで、環境への影響を抑制し、サステナビリティー施策を推進します。

 

  • 戦略的なエコシステム・パートナーと協力して、より大きなインパクトを推進します。サステナビリティー・データと生成AIの取り組みにおいて、パートナーを不可欠な存在とします。サステナビリティー・データをパートナーと共有することで、コラボレーションと共創を促進します。

  • 中央集権ではなく、民主化を図ります。関連するサステナビリティー・データやAI機能に従業員がアクセスできるようにします。データを活用した洞察に基づき、日々の業務や意思決定を調整する権限を従業員に与えます。日々の何千、何百万という細かな行動の蓄積が、自社のサステナビリティー戦略の実現につながります。

  • 立ち止まらず、スキルアップを続けます。ビジネス戦略の一環として、サステナビリティーと生成AIのスキルを適切に兼ね備えた人材の育成に投資します。生成AIを使って、従業員にサステナビリティーの概念を教育します。

 


リーダーが知るべきこと3ー 「環境 + 生成AI」

持続可能なAIは当たり前の存在ではありません

 

どんな道にも落とし穴はあります。企業が生成AIを「大規模に」活用するにつれ、サステナビリティーに関する新たな懸念が前面に出てきつつあります。

例えば、生成AIはリソースを大量に消費します。大規模言語モデル(LLM)を1つトレーニングするだけで、大量の水を消費し、大量のCO2を排出する可能性があります。企業は、新しいモデルをトレーニングする代わりに、既存の生成AIモデルを微調整すれば、影響を最小限に抑えることができます。生成AIによるカーボン・フットプリントと水の使用量を減らす計画を事前に立てる経営層からすれば、既存の基盤モデルを適用し、リソースを再利用することは貴重な戦術となり得ます。

生成AIの環境への影響を抑えるもう1つの方法として、プログラミング言語を切り替えることが挙げられます。これにより、アプリケーションのエネルギー消費量を最大50%削減できます。また、ワークロードを従来の仮想マシン環境ではなくコンテナ・プラットフォームで実行すれば、エネルギー効率の向上にもつながり、年間インフラ・コストを75%削減することができます。

生成AIは、以上のようなサステナビリティー戦略を次のレベルに引き上げることができます。単にコードを切り替えるのではなく、コードのパフォーマンスを分析することで、よりエネルギー効率の良いアルゴリズムやソフトウェアを開発することができます。また、どのワークロードが最も効率的にコンテナ化できるかを特定できるほか、データセンター全体を見直し、エネルギー消費を最小限に抑えるレイアウト、冷却システム、サーバー構成を設計して最適化することもできます。

生成AIは、自分自身を調査して、そのインパクトを抑える新たな方法を見つけることもできるが、その進路を照らすには、人間の頭脳が必要です。企業は、さまざまな研究機関、テクノロジー・プロバイダー、その他の企業と提携し、知識、リソース、ベスト・プラクティスを共有すれば、生成AIを利用して、炭素排出量の上限を超過せずにサステナビリティー戦略を推進することが可能になります。

生成AIは、従来のAIのリスクを一部増幅させるため、サステナビリティー報告などの領域での使用は厳密に管理する必要があります。しかし、経営幹部は、生成AIをサステナビリティーに利用する際の最大の障壁として、自社の準備が十分でないことを挙げており、チームが適切な状態にあるという自信は持っていません。

 

経営幹部は、生成AIをサステナビリティーに利用する際の最大の障壁として、自社の準備が十分でないことを挙げています。

 

 

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「環境 + 生成AI」

生成AIを活用して、ネット・ポジティブな影響を与えます

 

ゼロから作り始めるのではなく、既存の基盤モデルの上に構築することで、生成AIの環境への影響を最小限に抑えます。生成AIを利用して、環境負荷の少ない今まで以上に優れたコードを開発し、サステナビリティーを踏まえてデータセンターの設計を見直します。

 

  • 生成AIへのアプローチを見直します。生成AIの機能がさらに普及する前に、それらをより持続可能なものにします。可能な限り、既存のモデルをアップグレードして微調整します。エネルギー消費量の少ない計算方法を採用します。
     
  • サステナビリティーを意識してITを設計します。エネルギー消費量、ハードウェア使用率、データ・ストレージの状況を監視し、どうすればエネルギー効率をさらに高められるかを特定します。生成AIとハイブリッドクラウドを活用し、ITのカーボン・フットプリントを抑えます。
     
  • 場当たり的なショートカットをしません。データ・ガバナンスを導入することで、生成AIの利用状況がサステナビリティー推進の原則に準じているか、また、自社の価値観に沿っているかを確認します。

 

本ページに記載されているインサイトは、IBM Institute for Business Value(IBM IBV)の独自データに基づいています。このデータには、2023年8月に22カ国の500人の経営層から得られたサステナビリティーの業務への導入に関するインサイトのほか、2023年4月に34カ国の2,500人の経営層を対象として実施されたIBM IBV調査「The ESG data conundrum(邦訳:成長の原動力か、妨げか、それが問題だ)」の公開データおよび関連調査の未公開データ、2022年5月に公開されたIBM IBV調査「IT sustainability beyond the data center(邦訳:データセンターから始まるITサステナビリティー)」のデータ、そして2022年1月に公開されたIBM IBV調査「Sustainability as a transformation catalyst(邦訳:サステナビリティーは変革を引き起こす「カタリスト」である)」のデータが含まれます。


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発行日 2023年11月28日

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