厳密な定義では、カスタマー・エクスペリエンスまたはCXは、顧客が、企業やブランドとのやりとりを通じて受けた認識や感覚を合計したもの、あるいはその集合体です。 この用語の意味する内容は、以下のフレーズに反映されています。それは、「X社は一貫した素晴らしいカスタマー・エクスペリエンスを提供しています。」あるいは、「Y社の機能性の低いウェブサイトが、同社のカスタマー・エクスペリエンス全体を弱体化させています。」です。
ただし、カスタマー・エクスペリエンスは、カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント(CXM)の省略表現として使用されることも多くあります。そのCXMとは、会社とやりとりをするあらゆる人向けに理想的なエクスペリエンスを作り出すことで、ビジネスの成果を向上させていくための戦略、テクノロジー、および実践を意味します。 この二つ目の用語の意味する内容は、以下のフレーズに反映されています。それは、「私は会社のCXチームで働いています。」あるいは「当社は、カスタマー・エクスペリエンスのコンサルタントを雇用しました。」
です。カスタマー・エクスペリエンスは、会社とその価値提案について、製品やサービス機能、パフォーマンス、料金体系と納品を通じてではなく、人的な要素で競合他社との差別化を模索します。人的な要素とは、会社の顧客に対する理解、サービス提供、および扱いに関して、顧客がどの程度良い感想を持っているかということです。 この差別化の目的は、顧客の生涯価値を最大化する、顧客との情緒的絆を形成することです。それは、会社が獲得した顧客によって実現できる、究極的な利益です。
優れた、あるいは素晴らしいカスタマー・エクスペリエンスは、顧客ロイヤルティーを深め、顧客維持率を向上して、顧客への売上の増大を生み出すことにより、顧客の生涯価値(CLV)を最大化することができます。 さらにそれは、既存の顧客からの口コミ、およびブランドに対するオンライン・アドボカシーによる新規顧客の獲得を通じて、成長を推進することもできます。
カスタマー・エクスペリエンスの今日における重要性は、高く評価してもし過ぎることはありません。 業界アナリストであるGartner社によると、3分の2の企業が、カスタマー・エクスペリエンスにおいて競合関係にあります(ibm.com外部へのリンク)。 IT企業幹部(2021年)を対象としたStandard & Poor’s社の調査によると、カスタマー・エクスペリエンスの向上は、唯一最も重要なデジタル変革の推進力であると発表されました(ibm.com外部へのリンク)。 そして、業界アナリストであるIDC社は、カスタマー・エクスペリエンス・テクノロジーへの支出は、2022年に641米ドルに到達すると予測しています(ibm.com外部へのリンク)。
顧客中心主義
ビジネスを、カスタマー・エクスペリエンス重視に移行していく上で欠かせない最初のステップは、顧客の認識と感覚を、関係性の舵を取る場所に据えることです。 これには、企業のブランド・プロミスを、自社の顧客のニーズと感情に対する理解を基礎とすること、および潜在顧客と実際の顧客が、関係におけるそれぞれのステージで(またはそれぞれとやり取りをしている間であっても)、求めていることを可能な限り深く理解することも含まれます。
これは、多くの企業にとって、重大な移行です。 それには通常、役職員以下からの支援が必要となります。 これまでのキャリアで特に顧客中心ではなかった、あるいはトランザクションのメトリックまたは金融KPIを重視することで成功をしてきた管理職およびマネージャーには、適応が困難に感じられるかも知れません。 そして上述のように、それにはモバイル・アプリケーションから支払処理、高性能な分析および人口知能までのすべてに関して、新たなテクノロジーへの多額の投資が必要となります。
しかしその移行には、努力をする価値があります。顧客は常に、文字通りの意味で正しいという訳ではないかも知れませんが、顧客が会社とやり取りをして抱いた感想については、決して間違えはないのです。 納品の遅延、お客様サポートまたはカスタマー・サービスとの誤解など、印象の悪いカスタマー・エクスペリエンスは、顧客に対して、自らが特別にそして意図的に粗末な扱いの対象にされたと、どんなに不合理であろうとも、思わせてしまう可能性があります。 ある調査では、顧客の6人に1人が、一度でも印象の悪いエクスペリエンスがあった場合に購入を中止し、顧客の86%が、2、3度だけでも印象の悪いエクスペリエンスがあった場合に、信頼できるブランドから離れていたことが分かりました(ibm.com外部へのリンク)。
対照的に、好意的なカスタマー・エクスペリエンスをした顧客は、会社が自らのためだけに存在しているという気持ちになり、より重要なことに、手厚いという印象を抱き続ける可能性があります。 PwC社によると、消費者の65%は、優れた広告よりも好意的なエクスペリエンスの方が重要だと感じています。 同じ調査で明らかになったことは、素晴らしいエクスペリエンスのためには、顧客が最高で16%支払う意思があるということです(ibm.com外部へのリンク)。
顧客のペルソナ
顧客のペルソナは、購入者のペルソナとも呼ばれ、会社の顧客または潜在的な顧客の重要なセグメントを象徴する架空または半架空の顧客/購入者像のことを言います。 たとえば、スキーおよびスノーボードの備品を製造する会社は、初心者のスキーヤー、中級者のスノーボーダー、上級者のスキーヤー、あるいはスキーやスノーボードを始めた子供達の親という人物像を作成する場合があります。
ペルソナは、さまざまな情報源(購買活動、Web分析、調査、評価とレビュー、ソーシャルメディアの投稿)からのデータだけでなく、カスタマー・サービスとサポート・チームとのやり取りに関するフィードバックおよび洞察にも基づいて作成されます。 ペルソナを作成する目的は、顧客ライフサイクルのさまざまなステージにおいて、各顧客セグメントに属する人々の要望とニーズの視覚化に役立てることです
カスタマー・ジャーニーのマップ
購入者のペルソナは、カスタマー・エクスペリエンス管理プログラムの開始点となります。 カスタマー・ジャーニー・マッピングの次のステップ:各ペルソナが顧客ライフサイクルの中で体験する、顧客が会社を初めて知って関りを持った時から、初めての購入を決定する過程までの、やり取りやタッチポイントを定義および最適化します。購入決定は、顧客による製品やサービスの継続使用、および追加購入や購入中止の意思決定を通じて行われます。
カスタマー・ジャーニー・マッピングの前提条件となっていることは、1)潜在顧客または既存顧客が各タッチポイントで目的のある行動、つまり問題解決に努めたり、質問に答える、あるいはオプションを比較したり、to-doリストから何かを外したりなどを行っているということ、そして2)それらの目的ができる限り、素早く、簡単に、スムーズに、および高い満足度で果たせるように会社がサポートすることで、購入ジャーニー中のこれらの顧客を、ロイヤルティーの高い顧客となるように、留まらせることができるということです。
カスタマー・ジャーニー・マッピングは、必ずしも網羅的である必要はありません。 その目的は、カスタマー・エクスペリエンス戦略を発展させる、実行可能な洞察を提供することです。 あらゆるペルソナに対して、顧客の全タッチポイントのエンドツーエンド・マップを完成するのではなく、会社で最も明らかに不採算となっているタッチポイントや、素晴らしい利点をもたらす複数のパルソナを重要視することを、まず最初の目的とすべきかも知れません。
CXMで「手間のかかる作業」は、全社的なあらゆる側面の方向性を再設定して、顧客のニーズだけでなく、顧客の心理的な欲求を予測し、満たすことに焦点を絞り込み、真に素晴らしいカスタマー・エクスペリエンスを実現することです。 顧客の心を捉えることが、ブランドのロイヤルティーを築き上げ、顧客のチャーンを削減して生涯価値を最大化します。
有効なカスタマー・エクスペリエンス(CX戦略)の鍵となるいくつかの要素、およびそれらを推進するテクノロジーは、以下の通りです。
オムニチャネル・アプローチ
CX戦略は、以下を含むカスタマー・エンゲージメントおよびコミュニケーションの、全チャネルを網羅する必要があります。
あらゆるチャネルにわたり、メッセージングとエクスペリエンス間の一貫性を保つ必要があります。それによって潜在顧客および既存顧客が、一つチャネルから別のチャネルへ、まるでそれらすべてが同じエクスペリエンスの一部であるかのように、シームレスに移動することができます。 拡張を最大限することにより、顧客が、量的にも数的にも可能な限りの目的を、好みのチャネルで果たせるようにする必要があります。つまり、カスタマー・サポートをソーシャル・メディアまたは携帯電話で受けたり、購入をアプリまたはeコマース・サイトで行えるようにする必要があります。 カスタマー・エクスペリエンスは、お客様のいる場所を問わず対応できなければなりません。
カスタマー・セルフサービス
電話番号の提供や、お客様が情報を記入できるフォームの提供によって、代表者と連絡を取り合えるという構成は、もはや許容されるカスタマー・エクスペリエンスではありません。 顧客は、必要な情報、回答、およびサポートを、セルフサービスで求めることを望んでいます。
よくある質問( FAQ )、ナレッジ・ベース、およびカスタマー・フォーラムは、始まりに過ぎません。 顧客の期待は、次第に以下の内容を含むようになっています
カスタマー・セルフサービスは、すべての自動化が良いとは限らない唯一の分野です。 たとえば、Forbes社によると(そして多数の人たち意見を反映すると)、最近の顧客調査にて回答者の39%が、対話式音声応答(IVR)に相談するのであれば、トイレ掃除をする方が良いと考えていることが示されました(ibm.com外部へのリンク)。 CXチームは、光り輝く新たな技術の玩具よりも、顧客のニーズと要望を優先させることに注意する必要があります。
パーソナライズされたエクスペリエンス
パーソナライズされたエクスペリエンスとは、顧客の特定の要望、要件、目的、好み、またはパーソナリティー(ネットワーク構成情報)さえも満たすように調整された、やり取りやサービス、あるいは製品のことです。 パーソナライズされたエクスペリエンスの例(決して以下に限りません)
パーソナライズされた、顧客との多くのやり取りには、高度な分析、自動化、および人工知能(AI)などの強力なテクノロジーが必要です。 しかしその他については、よりシンプルなテクノロジーが求められます。たとえば、顧客に単に「今日は何をされますか?」と尋ねるウェブの「スプラッシュ・ページ」です。 さらに、テクノロジーをまったく必要としないものもあります。人々のファースト・ネームがラベル付けされているコカ・コーラのボトルは、顧客が友人にパーソナライズされた飲み物を贈ることを可能にします。
実装がどのように行われるかに関係なく、パーソナライゼーションは、優れたカスタマー・エクスペリエンスにとって最低限必要であると次第に考えられてきています。 McKinsey社による最近の研究では、顧客の71%がパーソナライゼーションを期待し、顧客の76%がそれがないと分かると不満を抱いたことが分かりました(ibm.com外部へのリンク)。
従業員の経歴
ほとんどの組織では、カスタマー・エクスペリエンスの向上には究極的に、お客様の従業員の「エクスペリエンス」を強化するための平行したプログラムが必要であることに気付いています。そのプログラムは、お客様の従業員が顧客とのやり取りと顧客への応対に使用するツールの、ユーザー・エクスペリエンスおよびパフォーマンスを強化します。 最近のIDC調査において、回答者の85%が(ibm.com外部へのリンク)、従業員のエクスペリエンスを向上することにより、「カスタマー・エクスペリエンス、顧客満足度、および組織の収益が向上した」ことを認めました。 同じ調査で回答者の58%が、顧客満足度は従業員の生産性評価における、鍵となるメトリックだと指摘しました。そのため、顧客の期待に応えるために、従業員が可能な限り最高のツールを持つ必要があるということは、単に正しいことだと思われます。
機能横断的なコラボレーション
正常なカスタマー・エクスペリエンス管理のイニシアチブは、組織的なサイロを分解し、新たな方法で情報を共有し、恐らく最も重要なことに、カスタマー・エクスペリエンスおよび顧客満足度の責任を共有します。 カスタマー・エクスペリエンスに尽力する企業は、多くの場合において、さまざまな分野(営業、マーケティング、お客様サポート)にわたる顧客データを統合し、顧客に関する信頼できる単一ソースを作成します。 そして大抵の企業が、経営幹部、通常はカスタマー・エクスペリエンス責任者(CXO)を任命します。その責任者には、カスタマー・エクスペリエンスに影響を与える機能横断的な問題について、部門同士を協力して取り組ませることのできる権限があります。 実際に、業界アナリストであるGartner社によると、2019年 までにCXOのいなかった企業はほんの11%でした (ibm.com外部へのリンク)
フィードバックとメトリック
カスタマー・エクスペリエンスには、日々のビジネス処理の一部として、または特別なプロジェクトとして定期的に、フィードバックと測定について収集および処理する必要があります。 企業は通常、リアルタイムに顧客からのフィードバックを得て顧客満足度を測定するために、テクノロジーを導入します。 一般的なメトリックは以下の通りです。
CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)とは、顧客ライフサイクル全体の中での顧客とのやり取りから生じたデータを収集、追跡、分析し、さらにそれに基づいて行動するという実践のことです。 CRMは、この実践を簡易化および自動化するために使用される、Salesforce.comやSAPなどのソフトウェアのカテゴリーも意味します。
Webが登場する前から存在していた最初のCRMシステムは、カスタマー・エクスペリエンスに関する最初の管理システムであると考えられています。それは、営業チームとカスタマー・サービス・チームが、顧客との直接的なやり取り(対面、電話、メール、またはダイレクト・メール)を最適化およびパーソナライズするために使用されました。 今日CRMシステムは、組織のカスタマー・エクスペリエンス戦略のすべての要素に欠かせないデータ・ソースとして機能しています。 多くのCRMシステムは、顧客のデータに基づいてエクスペリエンスを生み出し、提供するために、各システム独自の先進テクノロジーも使用しています。
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